劣情

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いつも僕の前を歩いていたのは(あらた)だった。 太陽に照らされて輝くストレートの黒髪、切長の目に筋の通った高い鼻。すらりと高い背に長い足。地元の中学校の学ランを着こなして、広い肩で風を切って歩く新は格好が良くて、大好きで、小学生の幼い僕は目を輝かせながら着いて回っていた。 それに比べて鈍臭い僕は、寝癖で跳ねた栗色の髪をそのままに新の周りをうろついたり、新に追いつこうと走ってつまづいてこけたりするものだから、新は薄い唇から白い歯をのぞかせていつも笑うのだ。 「全く、瑠衣(るい)は。」 そう言って新は僕の髪を手で梳く。 それが嬉しくて、嬉しくて堪らなくて絆創膏をわざと下手くそに貼ってみたり、たまたま朝に早起きができた日でもわざと髪に櫛を通さなかった日もあった。 隣同士の家に住んでいる僕らは、母親同士が仲良くしていることもあり、僕が生まれた時からの付き合いがあった。 一人っ子の僕だったけど、新が実の兄のように可愛がってくれたから寂しくなかった。 大好きな大好きな新。 当然のように僕らはずっと一緒だと思ってた。 …あの時までは。
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