2人が本棚に入れています
本棚に追加
流行の顔を正義と認め、求め、整形手術によって獲得すれば、いつまでもイケてると思ったら大間違いだ。儚く流行おくれとなってダサ顔になってしまう。しかし、若い女の中にはカルト宗教の狂信者のように今流行りの顔が絶対正義で永遠に変わり得ないと信じ込んでいる者がいて整形手術を受けてしまい、後々後悔することになる。自余にも写真加工アプリを使って思い切り見栄え良く盛った自撮り写真のようになりたい、アニメのヒロインのようになりたいと無茶苦茶な願望を持って美容整形クリニックに訪れる者もある。
女の執着心というものは凄まじいものだが、いずれにしても当世の若い女がなりたがっている顔の共通点と言えば、とんがり顎とアヒル口である。しかし、当世の若い女は何も整形しなくても幼少の頃から親に柔らかい物ばかり食べさせられて来た所為で下顎が発達していないので自ずととんがる傾向があり、また、上の歯が下の歯より通常以上に前に出て出っ歯になるので自ずとアヒル口になる傾向がある。
結局、出っ歯になっているとも気付かない儘、それがトレンドになってしまっている訳だ。しかし、幾ら流行の顔が良いと言っても出っ歯はいかんだろう。そう思う俺は、最先端の流行りの顔をした若い女が枕営業を持ち掛けて来ても絶対断るね。今時の奴から見たらどうか知らんが、俺から見れば、はっきり言ってキモい。顎がとんがってて出っ歯でアヒル口で序でに目を大きく整形しがちだから、まるで皿のない河童か皺の少ないヨーダかまんま火星人のようだ。なのにしょってるんだ。自信満々でさ、出っ歯剥き出しで大笑いするんだ。指摘されたことがないからいい気なもんだ。兎角、日本人はコロナがないものとして普通の生活に戻りたがるように放っておいたら悪化するばかりなのに悪いことから目を背けがちで何も問題ないようにやり過ごしてしまうから、それこそ、はっきり言ってやりたいが、言ったところで日本の若い女全般の出っ歯になる傾向を封じ込められる訳じゃないし、相手の女個人を傷心させるだけだから言えない。となると、付け上がるだけだ。困ったものだ。だから断るしかないんだ。で、東京駅から銀座に向けて赤煉瓦を横目に目抜き通りを歩いていると、地方からも来るのだろう、見るからに流行を追った、不自然な顔をした女が某有名美容整形クリニックから帰って行くのを見かけることがあるが、実際、その類の女か枕営業を持ち掛けて来たんで断ったら、やっこさん、涙目になって何でですか?と怪訝そうに聞いて来た。不道徳だと思わんのかい?と聞き返して見たら、お金の為ですもんって言うんだ。
「利益至上主義か?」
「いえ、そういう訳じゃないですけど…」
「そういう訳だろ」
「…」
俺の迫力に彼女は黙ってしまった。傍から見れば、俺がいじめているように見えたかもしれない。彼女自身もいじめられている気になっていたかもしれない。或いは、このオヤジ正義ぶってバッカじゃないの!とでも思っていたかもしれない。こんな女は箸にも棒にもかからない。ほんとにどうしようもないね。手に負えないよと思いつつ口をもごもごして文句言いたげな彼女の隠見する出っ歯が目に付いて虫唾が走った。
その時だった。突然、彼女は開き直ったかのように出っ歯剥き出しで大笑いし出した。
「アッハッハ!あたしらの仕事が利益至上主義で何が悪いんですか?」
「…」俺はギョッとして答えるどころではなかった。
「ほら、答えられないでしょう。あたし、もう、あなたと交渉しません。他当たります」
そう言ったかと思うと、決然と立ち上がり、据え膳食わぬは男の恥と世に言うが、その逆に恥掻かせやがってこの馬鹿野郎と言わんばかりの目で俺を睨んでから立ち去って行った。俺は勿論、未練はなかったが、どうせ整形するなら出っ歯を矯正しろ!と言いたかった。
因みに俺の妻は15年以上前に俺に枕営業を持ちかけられ承諾した女だった。あなたって物凄いテクニシャンねって言ってたっけ、俺も酷く気に入ってさ、それが馴れ初めになっちゃったって訳だが、勿論、妻は出っ歯じゃないぜ!
最初のコメントを投稿しよう!