目を閉じて

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目を閉じて

疲れているにもかかわらず眠れなかった。 1週間くらい前、ヨシキは、部活で足首を捻挫した生徒を引率して病院に来た。 僕の顔を見て、ヨシキは心配してくれた。 「タクミ、目にクマできてるぞ。あんまり頑張り過ぎるなよ。おまえが倒れたら、みんな困るんだからさ」 その後でヨシキは、僕が子どもの頃から好きだったガラナとカッパえびせんを、わざわざ差し入れしてくれた。 その時のヨシキは、いつもと少しも変わらない元気な様子だった。 いや、今にして思えば元気そうに振る舞っていたんだな。 ああ、僕は自己管理するだけで精一杯で、ヨシキの異常に何一つ気づいてやれなかった。 考えてみると、ヨシキが僕の疲れを心配してくれたのは、自分自身が限界を感じて不安を抱えていたからではなかったか。 僕はなんて鈍感だったろう。 自分がどんな状況であれ、相手の不調を見抜くことが僕の使命だというのに。 僕は情け無かった。 自分の無力と無神経さを恨んだ。 僕はグループLINEに、どんな言葉を書こうか考えてみた。 何も思い浮かばず、どんな言葉も嘘くさく、ただ胸がヒリヒリと痛んだ。 『何もかも捨てて逃げ出したい』 その気持ちは、僕にだってある。 年中、忙しいヒロトやマサヤ、リュウジにだってあるだろう。 僕自身、未来に希望を見出せず、日々の重責に押し潰されそうな心は、常に悲鳴を上げていてる。 ギリギリ踏ん張っているけれど・・・ 『もう、いいんじゃないか。ここまで頑張ったんだ・・』 と、海に足が向くこともある。 過酷な登山に挑戦するのも同じだ。 『何かあったら?!それはそれでいい。どうせなら好きな山に魂を捧げたい』 という気持ちを、いつだってリュックに詰め込み山に向かう。 夜中、時々、ヨシキに電話をかけた。 メールが既読になってないか何度となく確認した。 相変わらず、電源が入っていないか電波の届かないところにいるらしかった。 うつらうつら、眠ったかもしれない。 スマホの目覚ましの音で意識が覚醒した時。 頭が砂袋のように無意味に重く空虚だった。 それでも。 どんな日も、仕事は始まる。
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