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女の子とぶつかり二人して床に転がる。
「いててて……」
「た、助かった……」
女の子がつぶやく。まったく助かってなんかいない。立派な衝突事故だ。
「あの、すみません、ここは冒険者ギルドですよね!?」
床に尻もちをついたままの僕に、四つん這いのまま女の子が謝るでもなく必死な形相で問いただしてくる。
「そ、そうです。受付はあっちで……」
「ああ、よかった!その身なり、もしやあなたは冒険者の方ですか?どうか、助けてください!!」
女の子はまったくこちらの話しかは聞かず、話し始めた。
魔獣王の城に囚われていたのを、命からがら抜け出し逃げてきたという。
「お願いです!どうか私を王都に連れていってください!」
女の子が手を組んで懇願してくる。美人なだけに圧が強い。
「お、王都のお城に?」
「はい、申し遅れました。私はモカと申します」
聞けば女の子はお城の姫だという。高貴な出自の娘ではないかと薄々感じてはいた。金色の綺麗な髪に、薄汚れてはいるが着ている服は上等のドレス。肌も透き通るように綺麗だ。そして畑仕事や水仕事をしたことがないような細く綺麗な手。でもまさかお姫様だったとは。
「どうかお願いです」
お姫様の願いを一介の平民である自分が無下に断るわけにはいかない。けれど、冒険者初心者の自分が姫の護衛をするには荷が重すぎる気がする。それに僕は王都とは方向が全然違うブルー山脈の方に向かうところだ。
そう告げると姫が言った。
「ではこうしましょう。私はここに残ります。お城の者に迎えに来るよう伝えてきてくださいませんか」
お姫様が僕の目を真っ直ぐ見つめてくるので僕は目をそらした。
お城への伝言役。薄情と思われるかもしれないが正直、あまり乗り気じゃない。というか、そのお使いは僕でなくてもいいのではないか?
それこそ後ろのギルドのお姉さんに頼んで、王都のギルドに連絡してもらえばいい。ギルド同士の連絡手段が何かしらあるはずだ。
「あのそれなら後ろのギルド受付に」
「よろしければこの回復草も差し上げます。道中で魔獣に襲われ怪我をしても治せますし、体力の回復もできます」
モカ姫が雑草のような草を差し出す。
回復草?
僕は考えた。そういえば回復のことを考えていなかった。強力な剣を手に入れたとはいえ、一撃も敵の攻撃を食らわず勝てる保証はない。回復手段があれば、怪我を負ってもすぐに回復して次の敵と戦える。レベルを上げたい僕にとっては効率がいいといえばいいが……
「もし引き受けてくださったらお礼をはずまさせていただきます」
「困っている人を見捨てては行けません。引き受けましょう」
交渉は成立した。
僕はモカ姫から回復草と王様宛の手紙を受け取った。
「……ん?この手紙、まるで僕が魔獣王の城から助けだしたかのように書かれてますが、いいんですか?」
「え、ええ。ちょっとだけ脚色しました。私が自力で逃げてきた、というのはたくましすぎるので、あなたに救出してもらったことにしてもらえるとありがたいです」
姫としての面子のためか。
ただの伝言役を引き受けただけのつもりが、姫救出の英雄役もしれっと背負わされていることに引っかかりはするものの、今さら断れる空気でもない。
モカ姫と話しをしているうちに、もう昼にさしかかっていた。そろそろいい加減旅に出なければ日が暮れてしまう。
宿の二階に部屋をとり、そこで休んで待っているというモカ姫と別れ、僕はギルドの扉に近づいた。
「そこの者、待たれよ」
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