【東京から一ノ関】

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【東京から一ノ関】

 無事に東京駅に到着したはいいものの、まだ未明の頃だ。駅は開いているものの、目的の切符がもらえるのはもう少し後のようであった。構内を歩いて丸の内側に出る。薄寒い空気、濃紺から陽光色のグラデーションに移り変わりつつある空を背景に、赤レンガ宿舎の光景が目に入った。見上げれば、白い三日月。かつて標高三千メートル超で見たものとはまるで違うが、これはこれで一つの趣だろう。三脚を立てて、カメラを起動する。幸い平日の朝一番だ。人通りもなく、気兼ねなくシャッターを切ることができた。  しばらく外を歩いていたが、流石に寒くなってきたため構内に戻る。東京駅の地下街はまだどこも開いていなかった。こういう時に朝からやっている喫茶店があればなァ――名古屋は少し歩けばすぐにそういった店があるものだが、県外に出ると途端に少なくなる。東京の人も大阪の人も、ちょっと時間を潰す時は何をしているのだろう? 構内にあった自販機のコーラが百九十円になっているのを見ながら、そう考えていた。ふと構内地図が目に入って、よくよく見るとファストフード店があるようであった。そういえば朝食もまだである。朝から食べるには少々重たい気もするが、まァ仕方ないだろう。  時間になった頃にコーラを飲み干し、切符を手に入れる。  当初は青森まで北上する予定だったが、時間の都合で諦めた。一度盛岡駅まで新幹線で突っ切って、一ノ関駅まで自由席の列車で戻る予定だ。――東京駅から直接行けたらよかったが、いや行けないことはないのだが、直通の便と予定のルートで到着の時間があまり変わらなかったため、そのように決めていた。問題は、徒歩での移動時間がどこまでかかるか、だ。それ次第でショートカットする部分もあるだろう。指定席に座って発車を待ちながら、購買で買った菓子をつまむ。客の数は疎らだ――と思ったが、そのようなことはなかった。きっと六、七割の人は私と同じことを考えているのだろう。発車時刻までに席はほとんど埋まってしまった。隣に座った親子連れは、きっと里帰りだろう。このような時期に被ってしまって災難なことだ。
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