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【仙台から山形】
山形駅まで、特急快速では一時間程度の道のりだ。新幹線と比べゆっくりではあるが、今日の目的地までは無事に辿り着けそうな様子である。山形といえば、つや姫だとか雪若丸だとか、そういう米が有名だったか。実際のところ改札を出て構内を歩くと、天井からそうした幕が垂れていた。
山形と言えば、蔵王の地名をよく聞く。そういえば、伊坂何某かという作家が共作の際に蔵王を舞台に書いていたか。彼の小説もまた仙台を舞台に書かれている。しかしここで訪れる予定は蔵王の先、宮内の熊野大社だ。駅近くのホテルに荷物をおいて、すぐに新幹線に乗り込む。山形新幹線に自由席があることは下調べ済みだ。新幹線で一時間足らずのうちに到着すると、体感では席に座って一息ついたら――というような具合だ。宮内駅で降りて外に出ると、のっぺりとした宿舎のような趣だ。なんとなく、南四日市駅を思い出させる。駅を出て少し行くと、遠目に石造りの鳥居が見えた。車道にまたがるように立っているが、車も通れるタイプの参道なのだろう。
さて、熊野大社といえば和歌山の熊野三社が有名だ。実際、この旅をするまでは私もそれしか知らなかった。熊野古道と言うくらいだ、伊勢街道のように、あるいは東海道五十三次のように、今でも熊野本宮大社に向かう巡礼路として使用できる。対して山形の熊野大社は、まるでそのような気配はなかった。福岡の宗像大社だとか、京都の松尾大社、梅宮大社のような位置づけらしい。鳥居を潜ると、境内には背の高い木々が並んでいた。左手の手水舎には模造の紅葉が飾られている。立派な大銀杏の木も立っている。時期が時期だったが、もう少し早い時期であれば見事な紅葉であったかもしれない。奥に行くと、拝殿に通じる石段が現れる。梢の隙間から光が漏れている。四十六段、と数えて登りきると、右手に拝殿が見えた。その手前には無数に風車のかけられた通り道。風はなかったが、息を吹くとカラカラと回る。縁結びの神社であるためか、ハート型に曲げられた竹に御籤が結わえ付けられていた。
朱印帳を巫女さんに渡し、参拝を済ます。拝殿の裏の方に回ると、二十以上の分社が祀られている。本殿まで行くと、三羽の兎と立札が掲げられていた。曰く彫刻の一部に兎が隠されている、それを見つけると良縁に恵まれる、と。カメラのズームレンズを持っていたが、流石に狡いだろう。双眼鏡くらい持ってくる人もいそうではあるが――などと考えながら拝殿に戻る。彫刻自体は見事だ。境内も立派だ。しかし残念ながら私は特別信心深いわけではない。むしろ信心がないため、下手な祈りを捧げないように気を遣いすらしている。
今日はここまでだ。宿に戻ってゆっくり寝るとしよう。実に長い一日だった。
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