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【日光東照宮】
駅からはバスが出ているようだったが、待合所が多くどれが東照宮に向かうものなのか判断がつかない。一つ一つ路線図と行き先を確認して、ようやく目当てのものを見つけた。周りの人々も最初は同じように右往左往していたが、やがて私の後ろに並び始めた。
駅を出てからすぐ土産物の通りがあった。バスに乗ってからも車窓からはそうした通りばかりが目に入る。五街道で言えば東海道が有名だが、日光街道もそれに含まれている。いつかは東海道も奥州街道も歩きたいと思っているが、日光街道も視野に入れておきたい。その際は、恐らくこのあたりの道を歩くことになるのだろう――などと、考えている間に、東照宮に着いたようであった。
降りると観光客の多さに圧倒される。目につくのは外国人の観光客ばかりだが、高齢者たちのツアーらしき団体も見受けられる。通りを抜けると、広い参道に出た。なだらかな坂道になっている。人の数は多いが、一人なので気にせずに行くことができる。二荒山神社。鳥居が見えてくると、その左側に大きな小槌と、赤い立札が置かれていた。英語は不慣れだが、「古来より神社には賽銭箱に小銭を投げ入れます。小銭がない場合は、こちらのコードから電子マネーを送ることができます。」――概ねそういった内容だった。
重要文化財に指定されている通り、大きな社だ。手早く参拝を済ませ、境内を一周する。東照宮が近いとは言え、あまり面白いものはなさそうである。奥に抜ける通路を見つけたが、どうやら東照宮の方に続くらしい。仰々しい朱門と、傍らでは恵比須の石像が笑っていた。影になっているせいか、どこか薄気味悪く感じる。真っ直ぐ歩いて、東照宮の境内に出る。連休ではないとはいえ、土日であるためかかなりの人手であった。親に手を引かれる子ども、拝観料を収めに行く老父、携帯ばかりを見ている若者らがいる中、私はカメラを片手に歩いていた。
一通り回ってから、どうやら拝殿は階段の先で、入場料を払わなければそもそも境内にも入れない様子であることがわかった。なんとも馬鹿げた話だと思ったが、そもそも券売所に並んでいる人の数が尋常ではない。よくよく見ると、入場料もどうやら高めに設定されているらしい――正直に言って、出したいとはとても思えない金額であった。人が少ないならまだしも、初詣のように人がごった返している中を参拝する気は起きない。今回は縁がなかっただけだと思って、東照宮の参道を逆走する形で道を戻る。民宿と土産物の店が並ぶ通りだ。バス停を見つけたが、丁度寸刻前に出ていったばかりらしい。散歩ついでに店を渡り歩くことにした。
実際に歩くと、土産物の種類は豊富だ。湯葉饅頭であったり煎餅であったり、なんとなく温泉街の様相だが――湯葉か。面白いが、食べ歩きのできそうなものはソフトクリーム程度しか見当たらない。饅頭を買ったところで、一箱丸々食べるわけにもいかない。難儀なものである。
なんとなく思い出すのは、別府の温泉街だ。あの時は確か、竹瓦温泉に寄って、饅頭をもらったのだったか。不意に酒饅頭が食べたくなったが、その溜飲を飲み込む。珍しく自分の意志で目的を諦めたが、不思議と心残りなどは感じない。こういうこともあるものだ。
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