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六月、祖母は旅立った。
葬儀の時、やはり私はあのお食事会に思いを馳せた。もう二度と開かれないお食事会–––– 祖母は、あの葡萄ジュースをちゃんと飲んだのだろうか。何故だか私の脳裏に焼き付いて離れない、あの葡萄ジュース。今でも家族の誰にも話していない、きっと誰も覚えちゃいないだろうから。願わくば、お腹が痛くなる前に飲んでくれていたらいいなと、今でも時々考える。
祖母のマンションは伯母夫婦がリノベーションを施して住むことになった。使いづらい横並びの二部屋の壁を取り除き、小上がりなども作ったりして、虫とは無縁なお洒落な空間が広がっていた。
不思議の国は、影も形もなくなった。
今でも親族が集まれば祖母の話をする。皆が旅行やお食事会でのエピソードを披露する中、私は胸の中であの夜の病室を思い浮かべる。もう何年も前の、ほんの数十分、それでもあの非日常の空間での出来事を、私は忘れることはないだろう。
今年の正月、伯母が茶碗蒸しを作って我が家に届けに来てくれた。分量を間違えたのか、蒸しが甘かったのか、半分スープ状のそれは、けれども祖母の味がした。
「ばあちゃんの味するよ」
私の言葉を聞いて、家族も茶碗蒸しに手を伸ばす。
「本当だ、おばあちゃんの味だね」
ゆり根は入っていなかった。
美味しくて、寂しかった。
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