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その放課後。
帰り道で椎名くんがピンクの風船を女の子に渡しているのを、私は目撃した。
「どうしたの、その風船」
「超能力で取ってきたんだよ。空中に浮かんでさ」
「お兄ちゃん、すごーい!」
女の子は大喜びで風船を手に帰っていった。
「どうやって取ったのか、私にだけこっそり教えてよ」
「超能力者は自分の能力について多くは語らないんだよ」
そう言って笑った椎名くんは、どこか誇らしそうだった。
どうせ新しい風船を買ってきて渡しただけなんでしょ、なんて野暮なことを言ってもつまらない。
不思議なことや分からないことの一つや二つあった方が、世の中は面白い。
だから私は「へえ〜」と相槌を打って飲み込んだ。
椎名くんに超能力があろうとなかろうと、きっと私を取り巻く世界は平和だし。
「どうしても知りたいっていうなら教えてやってもいいけど」
「いいやー。なんかどうでもいいし」
「ヒントはトランポリン」
「マジか」
それ、ヒントじゃなくて答えじゃね?
私は「聞かなきゃよかったー」と笑いながら歩き出した。
まあ、いろいろ思うことはあるけれど、これだけは断言してもいいだろう。
椎名くんは変なやつだけど、いい人だ。
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