優しすぎて痛い

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 浅崎の全身を何十回にも渡り刺し続けた後、僕は包丁を投げ捨てた。 「これで、僕も君も罪人だ」  泣き崩れる南を抱きしめる。赤色の世界の中で、できるだけ優しく。 「鍵開けちゃダメだろ……人を殺す前なんだから」  僕の腕の中で嗚咽を漏らす南は、僕より小さくて、柔らかくて、儚げだ。こんな奴が一人、今にも消えてしまいそうな様相で闘っていたのだと思うと本当に心苦しくなった。 「死のうとしてたんだろ?」  南は肩を上下させながら下手くそに頷いた。 「今、南は生きたいか?」  ううんと、南は首を横に振る。ああ、そうだろうなと僕は思った。南は、一生の中でも踏み入ってはいけない領域に入ってしまった。呪いを抱えていくには南はあまりにも儚すぎる。平常を保つことそのものが苦痛だろう。 「なら、せめて僕が君を殺すよ。感謝と、償いの意味を込めて」  僕は立ち上がると、先程放り捨てた包丁を取って戻る。きっと、一人で死ぬのは怖いからここにいたのだ。なら、僕が手を下した方がいい。  包丁を握り、僕はしゃがんだ。南は目元の涙を拭い、和らかく笑った。するりと自然な流れで僕から包丁を奪いそして。 「かはっ」  僕は吐血する。気付けば刃が刺さっていた。胸に、それも深く。だけど、痛くて苦しいのに怖さはなかった。虚ろになった視界の中で南の体も血を吹き出し、倒れた。光を失いそうな瞳が上目違いで僕に笑いかけている。  がくり、と僕も倒れて南と同じ体制になる。  なぜ、南が最後、僕を刺したのかはわからない。  でも、最後くらい僕の手で終わらせてあげられたらよかったのに。  結局、最後まで南は南だった。  この一瞬だけでも君になることができたなら……。  南の眼差しは光を失い。  僕も…………。 「ありがと」  死んだ。
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