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「萌さん……」
山道の急な魔のカーブの壊れたガードレールに花束を置いて僕はうずくまった。
涙がジーンズのズボンの上に落ちる。
「どうしてこんなことに……。全て、僕のせいだ」
溢れる涙を手で拭い、靴を脱いで花束の横に並べた。
錆びて鉄の匂いがむき出しになったガードレールに掴まりそっと崖を覗いた。
僕の意志に同意するかのように、ガードレールは僕の体温を奪いながら、不気味な音を立ててゆっくりと崖に向って傾いた。
このまま身を任せたら僕は楽になれる。
何も怖いことなんてない。
「僕もそっちに行くよ、萌さん」
ゆっくりと目をつぶり深呼吸をした。
「あなた、何しているの!」
突然、背後から甲高い声が聞えた。
「うわっ」
予想もしていない展開に心臓が飛び上がり、ガードレールを持っていた手が宙に浮いた。
体が前のめりになって、崖との距離が一気に縮まる。
パニックになった僕は、とっさに両手を広げて円を描き必死にもがいた。
さっき死のうと決意したばかりなのに死を直前にすると、やっぱり怖気づくんだ。
1ヶ月かけてようやくこの場所に来ることができたのに、いつまでも弱虫のまま変わらない僕。
もうこんな自分は嫌だ。
勇気を振り絞って目をつぶり、思い切って手の動きを止めた。
やっぱり怖い。
だけどーー。
僕は萌さんのそばに、父や母のそばに行くんだ。
体が傾いてすーっと頭から崖に吸い込まれていくように落ちていった。
さすがに目を開ける勇気はなかった。
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