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僕の頬を温かい風が次々に撫ぜていく。
何だか温かくて優しい。
予想していた感じとは全く違った。
誰かに抱きしめてもらっているような、安堵感が体いっぱいに広がっていった。
まるでお母さんのお腹の中にいる赤ちゃんのよう。
僕は両手を広げて鳥にでもなったような感覚でその空間を楽しんだ。
僕の心は恐怖から優越感に変化していった。
やり遂げられたという達成感も加わりつつあった。
だけど、その思いも束の間の出来事に過ぎなかった。
異変に気付いたのは、それからすぐ後のことだった。
この崖ってこんなに深かった?
そろそろ下に辿り着いてもおかしくないはずなのに、この感じは……。
落ちているっていうよりむしろ、上がっているような違和感がした。
肌で感じていた温かい風はいつの間にかなくなり、なんだか無性に体が軽い気がする。
ゆっくりと目を開けて辺りを見渡すと、信じられない光景がそこにあった。
何度も瞬きを繰り返し、自分の目を疑った。
崖にいるはずの僕が、地上にいた。
それも、足が地面から離れて空中に浮いている。
ほんの数センチだけど確かに浮いていた。
重力なんか存在しないのかのように。
そう思っ瞬間、急に体が重くなって地面に倒れこんだ。
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