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「痛っ」 腰を押さえながら辺りを見渡すと、そこは元の場所だった。 嘘だろう? 確かに僕は崖に落ちたはずなのに……。 一体、どうなっているんだ? 「大丈夫?」 「え?あぁ」 さっきよりも低い声が背後から聞こえてきた。 慌てて後ろを振り向くと、目の前に白い布が浮いているのが見えた。 白い布はまるで洗濯洗剤のコマーシャルの映像でよく見かける、シャツやタオルのように気持ち良さそうになびいている。 目を凝らしてよく見てみると、白い布の正体は女の子だった。 その女の子は白い布を体にまとって宙に浮き、上から僕を見下ろしている。 え? 宙に浮く女の子? 何度も瞬きを繰り返しながら、女の子を見上げて立ち上がった。 「こんにちは」 女の子は宙に浮いたまま、にっこりと微笑んだ。 可愛い! 小顔で整った可愛い系の女の子だった。 いやいや、そうじゃない。 「もしかして……、君は幽霊?」 「え?ゆっ幽霊……じゃないわよ。えっと天使よ、天使。ほら、背中に羽があるでしょ」 女の子は体を傾けて白い羽を指さしてウインクをした。 「えぇっ!」 自分でも驚くほどの大声が辺りに響き渡った。 天使って? あの童話によく出てくる天使? 嘘だろう? ここは日本で令和の時代。 この時代に天使がいる訳がない。 「そんなに驚くこと?」 女の子は頭を左に傾けて、茶色のカールした髪を指に絡ませながら僕を見た。 「もしかして疑ってる?」 女の子は鋭い目を光らせて、僕を見下ろしている。 「当たり前だろ。そんなこと簡単に信じられるわけないよ」 女の子は宙に浮きながら、少しずつ僕に近づいて来た。 視線を外さずそのまま後退ると何かが崖の下に落ちていく音が聞えた。 ちらっと一瞬だけ後ろを振り向くと、あと2、3歩程で崖の淵だった。 もうこれ以上は下がれない。
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