ペナルティーショットは譲れない!

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 迅也はそんなことしなくてももっと近くまで攻めてこれるくせに、俺の態勢が完璧に整う前、ゴールの前で構えたか、構える前かくらいを見計らってわざとロングシュートを打ってきたのだ。  抜け目ないやつだぜ。俺の腹辺りにパックが当たって跳ね返る。わざと当てやがったな。  すぐリバウンドを叩くため、目の前にはすでに迅也が待機していた。俺から見てゴール左端に浮かせないシュートを打ってきたので、左足を伸ばしてレガースでバチンと弾いた。  その瞬間またリバウンドを叩いてきたので、バタフライで両足を地面にピッタリとひっつけ隙間を埋める。  パックは人が思っている以上に小さい。ほんの小さな隙間からでもスルスルと通り抜けて入り込んでしまう。しっかり止めていると思っていても、実はゴールネットに入っているなんてこともざらだった。分厚い防具をつけた手や体の感触ではわからないこともあって、振り返って確認することもある。  バタフライは成功し、パックが少し遠くに跳ね返ったその瞬間に急いで立ち上がり、構えた。ここで諦める迅也ではない。再度、パックを浮かせて肩口を狙ってきた。ナイスパス!俺はグローブでがっちりとパックをキャッチした。 「PSは得意なんだけどなぁ……」  PSというのは、ペナルティーショットの略で、サッカーでいうPKのようなものだった。ゴールキーパーとプレイヤーの一対一。 「これはPSというのだろうか……」 「周りに誰もいないし似たようなもんじゃないの?」  グローブからパックを落とすと、すかさず迅也がスティックを伸ばして手元でハンドリングを始めた。 「かっこいいなあ」 「ハンドリング?」 「全部だよ」  俺は笑いながら答える。 「お前もかっこいいぞ」 「雪だるまが?」 「こんなにすばしっこい雪だるまは見たことがない」  迅也はハンドリングを続けながら言った。褒められているんだかいないんだかわからなかったが、迅也はちらっとこちらに目配せをした。ヘルメットの網目の奥で切れ長の目がキランと光る。獲物を狩るような鋭いのに魅惑的な瞳。  これだから迅也はかっこいいのだ。  はぁ、仕方ない。俺は当分の間、雪だるまでいることを決めた。 「迅也シュート外してやんの!」 「蒼生に止められてる~」 「負けんなよ、迅也ぁ。もう一回打て。決めろ!」  迅也の後ろから追いついてきた低学年たちは、口々に偉そうなことを言っている。  全くお前たちは……本当に大物になるよ。 (了)
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