後書き

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後書き  番外編・くわしい探偵社をお読みいただきありがとうございました。  以前から、オペラを題材にした小説を書きたいと思っていました。  「ナクソス島のアリアドネ」は現在でもしばしば上演されています。ネットには幾つもの動画が投稿されているのでぜひご覧ください。  このオペラはプロローグとオペラ本編とで成り立っています。小説ではプロローグの六割くらいを抄訳し、オペラ本編は大幅に翻案、脚色しました。  原作のストーリーを紹介します。  プロローグは小説で紹介したように、とあるお金持ちの屋敷で宴会があり、オペラが上演されることになります。ところが、オペラの後に喜劇が上演されるとわかり、さらに、同時に演じるようにとの指示が下されます。作曲家はオペラをカットしようとしますが、喜劇が割り込むことに絶望して譜面を投げ出してしまいます。ここは小説でもほぼそのまま踏襲しました。  オペラ本編では、作曲家の作曲した「ナクソス島のアリアドネ」が上演されます。初めに三人の精霊が出てきてアリアドネを見守っています。アリアドネは恋人に捨てられた悲しみを歌い上げます。そこへ、ツルビネッタの一座が割り込んできて、四人の男たちと賑やかに歌って踊ります。ツルビネッタは「偉大な王女様」で始まるアリアを歌い、新しい恋人が来れば前の男性は忘れられるといいます。次に、精霊たちが合唱する中へバッカスが現れます。バッカスはアリアドネを魔女キルケーと思い込み、アリアドネはバッカスを死の国への使者だと思います。アリアドネはバッカスの胸に飛び込み、死なずに生きることを決め、二人で抱き合います。  このオペラは演出することが可能な作品です。演出というのは、音楽と歌詞はそのままで、時代設定を変えたり、衣装、セットを大幅に修正することです。  「ナクソス島のアリアドネ」のオーソドックスな演じ方は、プロローグは18世紀の邸宅、服装も中世風、オペラ本編は絶海の孤島と岩屋があるといったものです。  現代劇に置き換えて演出を施した場合には、プロローグは豪邸の広間、あるいは楽屋のセットになります。たいていは左右に楽屋のドアがあり、ピアノが置かれていたり、その間を舞台スタッフが荷物を運んで行き交っています。登場人物は現代の服装で、スマホを持っていたり、ヘッドホンにインカムを着けていたりします。プロローグの部分は、最近の演出の傾向はほとんど現代劇にしていて、これがかなりうまくハマっています。  次にオペラ本編ですが、これを演出すると、絶海の孤島がハワイのようなリゾートであるとか、老舗のイタリアンレストランに変えられるものがあります。どう見ても、神話の世界ではなく現代劇になっています。ネットにある動画では、アリアドネが妊娠している設定だったり、ツルビネッタがレディー・ガガやマドンナ風になったりします。  最近の演出では、作曲家がオペラ本編を観客として観ているように描かれることが多いようです。  プロローグではセリフに抑揚を付けた歌い方が多用されます。アリアを歌うのは作曲家がメロディーが浮かんだシーンと、ツルビネッタとのラブシーンぐらいです。  オペラ本編ではツルビネッタが歌う「偉大な王女様」で始まるアリアが聴きどころで、これは十二分も続きます。その間、歌手は歌い、ハレルキンたちと踊っています。終わったとたんに拍手喝采でオペラは一時中断されます。  アリアドネの「清らかな世界」のアリアも荘厳で重厚な感じがします。  ナクソス島のアリアドネに出てくる作曲家は、原作では男性の設定だと思われます。オーソドックスな演出では、宝塚歌劇のように女性が男装しています。ただし、演じるのはメゾソプラノの女性歌手になります。現代劇にした場合は、女性の作曲家という設定になることが多いようです。  この点は、日本語訳にするといささか困ることがあります。  作曲家が「リハーサルをしたいからヴァイオリンを呼んでくれないか」という場面で、召使い(ここでは舞台スタッフ)が、ヴァイオリンには足がないから来られないと答え、それに対して作曲が次のように言います。 KOMPONIST  Wen ich sage: die Geigen, so meine ich die Spieler. 作曲家 「私がヴァイオリンと言ったら、演奏者のことですよ」  ドイツ語ではヴァイオリンをガイゲと言います。英語ではフィードルなので、上記のセリフを英語にすると、以下のようになります。  When I say the fiddles, I mean the players.  ドイツ語や英語とは異なり、日本語では一人称に私や僕も使います。従って、作曲家が男性の設定では、 作曲家 「僕がヴァイオリンと言ったら、演奏者のことだよ」となります。  今回は女性作曲家という設定にしてありますので、「私がヴァイオリンと言ったら」としました。  クラシック音楽の世界で女性の作曲家というと、クララ・シューマン、ファニー・メンデルスゾーン、アルマ・マーラーなどがあげられます。彼女たちはいずれも著名な作曲家の夫人や姉です。この他に女性作曲家にはルイーズ・ベルタン、セシル・シャミナードなどがいます。 参考文献 ナクソス島のアリアドネ CD 1986年 ウィーンフィル  ナクソス島のアリアドネ DVD 2008年 メトロポリタン歌劇場 ほか
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