<1・店。>

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<1・店。>

 フツウの人が絶対食べないようなものを食べてみたい。例えその結果病気になっても。――それが、俺の唯一にして絶対の趣味とだった。  あの有名な、蛆虫が沸いたチーズなんてものは序の口。  土でできた料理なんてものも食べたし、牛のアソコの料理なんてものも食べた。世界のあちこちを巡って珍味を堪能し尽くした俺が最後に辿りついた場所は、まさかの俺の祖国である日本であったのだ。 「東京の一等地だぜ、ここ……?」  俺は困惑気味に、そのビルを見上げた。 「こんなところに、珍味を扱った飯屋なんかあんのか?」  世界中の珍味を食して、それに関するブログ記事を書くのが俺の仕事でもある。奇食専門の食レポライターとでも言うべきか。そんな俺のブログに書き込みがあったのは、おおよそ一週間ほど前のことである。  まさかのまさか、日本にとんでもない珍味が食べられる店がまだあったというのだ。にわかには信じがたい。だって、世界を旅するよりも前に日本各地はとっくに巡っているし、情報をかき集めたのだ。背徳料理店、なんていかにもな名前の場所、その時にとっくにセンサーに引っかかってきそうなものだったのだが。 ――最近できたばっかりとか?いや、でもそれにしては看板がボロっちいな……。  薄汚れたビルの前には、錆びだらけの看板がぽつんと建っている。どうやらこのビルの地下に、ブログのコメントに書かれていた“背徳料理店”なるレストランが存在しているらしい。  かなりハードルを上げた名前だな、と笑ってしまった。俺も今年で四十二歳になるし、それなりに“大人のアレコレ”も見てきてはいる。どっちかというと、安いAVにでもありそうな名前だった。AVだったならばこの先で待っているのは、全裸の女性のストリップショーだったりするわけだが。 ――ま、今回は交通費も大して嵩んでねえし。別にいいか、空振りでも。  深緑色のカビが生えた汚い壁に辟易しつつも、看板が指し示す通り地下への階段を下っていく。コンクリートの打ちっぱなしの壁と、やけに急な階段。まるで、地獄への入口でもあるかのようだった。
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