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暦は五月に入り、若葉がまぶしい。
空は薄い水色。刷毛で描いたような雲がゆるく流れる。
レースのカーテン越しの温かな光が窓辺の観葉植物を包み込む。
朝の静けさを追い払ってコーヒーとトーストの香りが満ちるリビング。
(次は卵……っと)
――キッチンに立つ律は忙しい。
卵をたたいてカリカリに焼いたベーコンからしみ出した油に割り入れる。
フライパンで透明なジェルが油に弾けて濁って躍る。
慣れた手つきで蓋を乗せて蒸気を閉じ込めた。
「――律、おはよう」
遅れて起きた千秋は呼びかけて――律を背中から包み込む。
慣れた香りに包まれてほおを緩めると、両手で腰を絡めとって甘えるように顎を肩にのせる。ちょっと邪魔だが、毎度のことなのでいい加減に慣れた。
「おはようございます」
「隣にいたはずなのに、目が覚めたらいなかった」
耳朶にかる息がくすぐったい。
顔を傾けた頬に唇が触れて――当たり前のように唇をふさがれた。
「ん……っ」
腰を引き寄せて下へ降りる手を押しとどめて、胸を押し返す。
「ん、もう……っ、ダメですって」
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