彼女の約束

　誰もいない家に帰ると、そこにも約束が待ち構えている。

『週に一度は、面倒でも浴槽を洗って』

　これは僕はシャワーの間に果たすことにしている。帰宅して、炊飯器を仕掛けて、スイッチを入れて、シャワーを浴び、浴槽を洗いながら、僕はご飯が炊けるのを待っている。

　味気ないご飯を終えると、僕は彼女との約束を破る。
　Ｔシャツとトランクスのままベランダに出て、煙草を吸いながら、外を通っている車をただ眺めている。そして頬と、首筋に爪を立てて引っ掻く。子供の頃に酷いアトピーだった僕だけど、成人してからはほとんどそんな症状は出ていなかった。今になってそれがぶり返してきたようで、皮膚に突き立った爪からは、ついいましがたまで自分自身だった、死んだ白い破片が落ちてくる。

『引っ掻かないで、傷になってるから』

　彼女はそう言った、だけど僕は止めることができない。