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具体的に言えば、死んだ脳からの記憶の復号ではなく、生きている脳の情報をそのまま記録に残すことだ。被検者の脳には超小型の記憶チップが埋め込まれており、過去三十分の記憶を完全な形で保存している。生命活動の異常を検知しない限りは、三十分以上前の記憶は消去し続けられ、常に最新の三十分の記憶が残ることになる。この技術の根本思想は、百年前に自動車に標準搭載されていたドライブレコーダーと非常に近いものとなっている。
この技術の普及によって、犯罪捜査の現場は非常に大きな変化を遂げたと言っていい。記憶保存処理が施された死者の脳を調べれば、死の前の三十分の完全な記憶が残されているのだ。これは凶悪犯罪に対して強力な抑止力を持つものとして、政府はすべての国民に記憶チップを埋め込む法律を制定しようとしているが、目下のところ実現はしていない。これは野党のみならず与党内からも慎重な意見が出ていることによるものだが、この記憶チップの埋め込みによる恩恵もあり、今年度では十パーセントを超える国民が記憶保存処理を施している。この恩恵とは主に、生命保険の加入において有利な判定をされやすいということだ。
この結果現代の犯罪捜査、特に衝動殺人、事故、大規模テロなどの捜査においては、記憶保存処理は大きな威力を発揮している。一方で、計画的、知能犯的な殺人に対しては効果は限定的だ。そういった事件の犯人は、死の三十分前には証拠を残さないように努めるため、犯罪現場はより複雑化しているとも言える。
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