死後記憶保管部員の憂鬱

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 さらにもう一つの側面がある。記憶チップに保存される記憶には、視覚、聴覚のみならず、感情の記憶も含まれる。殺人事件の捜査の際、担当捜査員はそれら全ての記憶を追体験することになるのだ。  これは、法医学研究所、死後記憶保管部員である私にとっては大きな悩みの種だ。毎日毎日、恐ろしい死の記憶と向き合わされている。そこに記録されているのは感情を排した記録ではなく、恐ろしい、苦しい、痛い、そんな感情の記憶だからだ。日々の職務を遂行するために、私には睡眠薬と向精神薬が処方されているが、それでも足りず、落ち込まないでいるためにはアルコールの助けが必要だ。どうやら人間にとって、忘却は必要な精神の機能であるらしい。 (了)
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