増える守護者

1/2
前へ
/38ページ
次へ

増える守護者

胸のムカつきがあるからと、朝食を取らなかった香乃だったけれど。 何故だか津城も食べなかった。 組員の前と、香乃と二人きりの時との雰囲気の違いはどうなったとツッコミたくなる様な仕草で。 津城は香乃の手を引いて病院まで付き添い。 香乃の妊娠を確認した。 そうだった……そうだったぁ……。 「気持ち悪くないか?」 「ええ、軽い車酔いくらいですから」 津城は過保護だった。 最近は組員と共に動くことが多かったから、直接津城が香乃に手助けする事が無くて、忘れていた。 帰ったら離れに連れて行かれて驚いた。 元々何も無かった奥のひと間にでんとソファーが置かれていたのだ。 そこに座らされ。 「今日はゆっくりしてろよ」 と真剣な顔で言われた。 「着替えの準備を…」 と言えば、大丈夫だと断られ。 じゃあせめて玄関まで見送ろうと立ち上がれば手で制された。 「行ってくる、すぐ戻る」 と額にキスをして津城は出かけて行った。 飲み物を数種類と、果物を木田が離れに運んでくれて。 「ごめんなさい、お手伝い出来なくて」 そう謝った香乃に、木田は何度も首を振った。 「何を言うんです、そんな事ぁありません、姐さんは今から十月十日の大仕事を休みなくやるんです」 大事にして下さいと、二メートルは離れた所で優しい笑顔を浮かべている。 「油の匂いがしますんで、ここで」 服についた匂いを気にして、何かあったら携帯を鳴らしてください、飛んできますと言ってくれた。 不思議なほど眠い。 気持ち悪さはあるのだけれど、とにかく眠かった。 物音が聞こえにくい離れのソファーで、トロトロと眠って。 目が覚めて少しだけ水を飲んだら昼前だった。 そろそろ津城が戻ってくる。 起きて待っていたいのに、また直ぐに眠くなる。 昨日までは何ともなかったのに、ほっとして身体を休めたからだろうか。 トロトロと細切れに眠って。 そろそろ起きなくちゃと何度も思って。 微かな衣擦れの音にふ、と目を開けた。 津城がスーツを脱いでいる背中が見えた。 ああ、ジャケットを受け取ってかけてあげなくちゃ。 立ち上がってお帰りなさいと声を掛けた。 「ただいま、起こしたね」 いいえ、沢山寝ましたと微笑んでジャケットを受け取った。 ふわり、ジャケットからしたのは津城の練り香水の香りだ。 大好きな香りに、う、と息を詰めた。 スーツに吐いたらマズいと、申し訳無いけどジャケットを畳に落として小走りでゴミ箱に顔をツッコをんだ。 「う、う……ぇ」 まだ何も入っていないゴミ箱の、被せたビニールの匂いもダメだった。 背後に座って背中を撫ぜてくれる手。 でも……津城からも香りがする。 「ごめ、なさい……香水、だめみたい、です」 申し訳なさと苦しさにやっと、そう伝えた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

853人が本棚に入れています
本棚に追加