マタニティライフ

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マタニティライフ

結局、香乃が食べられたのはフライドポテトと何も塗らないトーストだけだった。 あとは普段飲むには酸っぱすぎる柑橘のドリンク。 ドリンクを手に持って歩く。 ちょっとでも、う、となるとそれをチビチビ飲むのだ。 ちょっと歩いては止まり口を付けるそれが、まるで酔っ払いがワンカップを飲みながら歩いているみたいだと、香乃は笑った。 津城は家に居る間中、香乃のそばに居る。 大丈夫だからと言うのだけれど、頑として譲らなかった。 夜中に吐き気で目覚め、津城に気付かれない様にとそっと起き上がっても、ゴミ箱にむかうと必ず背中に手の温もりを感じる。 香乃は吐き戻さずに嘔吐くだけの気持ち悪さだったので、夜中に目覚めさせて長い事付き合わせる事を申し訳なく思うのだけれど。 津城は必ず香乃が落ちつくまで離れずに居てくれた。 身体が温まると気持ち悪さが強くなると言うと、手だけ繋いで眠ってくれた。 大きくて温かい手が、朝までずっとそこにあってすごく安心した。 悪阻は一ヶ月ほど続き、おさまった。 「おいしい」 もう匂いも大丈夫になると、香乃は広間で組員と一緒に食事が出来るようになり。 木田が色々と情報を仕入れて来てくれたおかげで、バランス良くもりもり食べた。 「あー、食べられるって幸せですね」 にこにこ、にこにこ。 美味しそうに食事をする香乃を、津城をはじめ組員達が皆ほっとした笑顔を浮かべて見ていた。 疲れやすさはあれど、家の事も少しずつやり始めた。 津城はゆっくり過ごせばいいと言ったのだけれど。 「何もしない事のほうが落ち着きませんから」 と香乃も食い下がり。 絶対無理はしないと約束させられた。 「大丈夫か」 もうこれが口癖になった津城は、離れに戻ると香乃の背もたれになる。 以前までは胡座の間に横抱きにしていた香乃の身体が、丸くなるのを避けたいのだろう。 子供を膝に乗せる様に背中と胸を付けて。 津城事、ソファーの足に身体を預けるのだ。 「はい、大丈夫ですよ。ほんの少しお腹膨らんで来ました」 皆に見守られて五ヶ月も半ば。 ふっくらとしてきたお腹に、そっと津城が手を添える。 胸も張り始め、最近よく浮腫む気がする。 「本当だな…」 元々、津城は柔らかく香乃に触れる男だけれど。 より一層優しい力加減に、香乃は微笑む。 「秋人さん、性別そろそろ分かりそうなんです」 検診の度に、津城は待合室の隅で待っていてくれる。 一緒に入ってもいいのだけれど。 津城はそうしない。 「どっちですかね?…秋人さん、どちらがいいですか?」 ふわりと、津城の吐息が香乃の髪を揺らす。 「…どちらでも」 呟いた声の後で、するんと腹を撫ぜた手がまた温度を分ける様にそこで止まる。 「どっちでも、元気ならいい…香乃も子供も無事ならそれで」 「はい」 穏やかに返事をしながら、香乃は昼間の組員との会話を思い出していた。
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