マタニティライフ

5/8
772人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「そうそう、津城さん上手いじゃないの」 瑞江が最初にやった事は、津城への香乃のマッサージの仕方のレクチャーだった。 香乃の足は日に日に浮腫み、指で脛を押さえればしばらくへこんで戻って来ない。 香乃は離れで両足を投げ出し、片方ずつを瑞江と津城に取られマッサージを受けていた。 津城は素直に瑞江の声を聞き、真面目な顔で香乃の脹脛を揉んでいる。 香乃ちゃんの次の検診には付き添いをしようかね、と瑞江が微笑む。 心強い。 瑞江は日中も、香乃と一緒に家事をこなし。 散歩に付き合ってくれた。 「お袋、明日出るぞ」 「なんだい急に、ただいまも言えないのかいあんたは」 串間が外から戻り、広間で寛いで居た香乃と瑞江の前に来ると、ぶっきらぼうにそう言った。 「明日、休み貰ったから」 「はぁ?アンタの休みと何の関係があるんだい?、わたしゃもう少しここに居るつもりだったんたがね」 ムスッとした顔で見下ろす串間を、湯呑み片手に見上げた瑞江もまた、ぽんと言い返した。 「帰れって言ってんじゃねぇ、……飯でも、食いに連れてってやるって言ってんだよ」 「……あれ、そうかい」 不器用な串間の誘い方に、無言の香乃がキュンとした。 瑞江は湯呑みに顔を戻して返事もしない。 串間も言う事は言ったと背中を向けて部屋に戻っていく。 「楽しみですね」 にこにこと笑う香乃をチラリと見た瑞江が、少し照れたように目を細めて。 「わたしゃ、たいした服も持ってきちゃ居ないのに、ホントにあのバカ息子は…」 「ありますよ!洋服!」 よっこらしょ、と立ち上がり香乃が瑞江の手を取った。 「ええ?」 「あるんです、祖母の服が」 香乃と同じ位の体型だった千草の服は、瑞江には少し大きいか。 でも形を選べば調節が出来るはずだ。 香乃も着れそうな服は、いくらかこちらに運んである。 「さ、早く早くっ、明日はお化粧もしましょうね?」 いいよ、恥ずかしいと言う瑞江を急かして離れに向かった香乃は、丁度帰った津城に着流しを渡し、離れを立ち入り禁止にした。 「おめかしの準備です」 楽しそうに笑う香乃に、津城は目を細め。 「わかった」 と笑った。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!