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「……俺は、香乃のそう言う所が好きだ」 慰めと、優しさを含んだ声が静かにそう言った。 顔を上げた香乃が合わせた津城の目は、ただ優しい色をしていた。 「綺麗だなぁ…明るい所だけ見てきた人間だなって、初めは眩しかった」 自分と同じこれから人の親になる津城が、まるで娘を見る様な、母親を見るような…色々な物が混じった表情を浮かべて微笑んだ。 「……変えたくない、護りたい…要らない苦痛も、この世の中の平等じゃないクソみたいな現実にも、触れて欲しくないんだ」 浅はかな希望は、綺麗に津城が否定して。 それを見てきたリアルな男の言葉が飲み込んだ。 「……じゃあ、ずっと悲しいの?」 津城を見つめた。 「ずっと、皆は居なくなってもいい人間だって…命を投げ出すのがカッコイイって、そう思って生きていくの?」 悔しくて、悲しくて。 「……どうして簡単に、代わりに死ぬなんて笑えるの!?…そんなの嫌!」 振れ幅は大きく、受け止めるメーターは短い。 爆発した悲しさに香乃の声は震えた。 これから命を産み落とす不安と、知らない痛みに怯えている。 「香乃…わかったから」 「っ、」 どうしようも無い隔たりを、癇癪を起こして訴えているだけ。 自分でもわかっている。 …だけど。 「……大丈夫だ。アイツらは居場所がある…ここが住処だ」 お腹を刺激しない様に、壊れ物みたいに引き寄せられて。 津城が宥める手のひらを背中にはわせた。 「……」 「ここで、産みますから」 「香乃」 「簡単に捨てられる命なんて、この世の中にありません」 「……」 「正解かなんて、どうでもいい。…命がどれだけ重いものか…大切なものか…見てもらいます、全員」 産み落とされる奇跡の上で、全員が生きている事。 それがどれだけ尊い事か。 「反対なら構いません。貴方は、その時外に出ていて下さい」 「……香乃」 「私の気持ちは変わりませんから」 譲らない香乃を抱いて、津城は何も言わなかった。 それは、肯定では無い事を感じながら…香乃も動かずに居た。 我儘を貫くことが不正解でも譲れない。 自分でも驚く程頑なに、香乃の気持ちは揺らがなかった。
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