新生活

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「気をつけてくださいね、行ってらっしゃい」 香乃は玄関を出た所まで津城を見送った。 「……ああ」 津城の迎えに、矢田と野海が門の前に立っている。 出入口の横の頑丈なシャッターは、この武家屋敷の様な日本家屋には少し不釣り合いだ。 「……さぁ!今日はいい天気です、お布団干しましょう!」 組員は序列に従い、部屋を割り当てられていた。 台所を任せられている木田と、庭を整備している本城、あとは串間という下の組員を束ねる三人を除けば皆相部屋だった。 「交代でお布団干す順番を、決めなきゃですねぇ」 香乃は離れに戻らずに、本城と向かい合ってテーブルに座っていた。 「本城さん、お庭に物干し竿を増やしたいんですけど……場所ありますか?」 「ええ、少し見ますかい?どこでも構いませんよ」 本城はどこか邦弘と似た雰囲気がある。 どっしり構えて、表情が優しい。 本城と二人、庭に出た香乃は少し後悔した。 「凄く素敵ですね……お洗濯物裏だけにした方がいいですよね」 「なぁに、かまやしません。素人同然の道楽です」 庭木も池の周りもとても綺麗に整えられていた。 「本職さんがちゃんと手入れしたみたいですよ?」 本城からすれば、香乃は孫同然の年齢だ。 だからだろうか、目尻に深い皺を寄せた笑い顔はとても温かかった。 「ここに入る前に、ちっとかじってたんです」 「お庭の職人さんだったんですか!」 香乃の幼い物言いに、本城は更に目尻の皺を深くした。 「そんな大層なもんじゃないですよ、さぁて、姐さん……あの左の端がいいですかねぇ、日も当たるし」 「はい、横に二つ置けますか?六本竿を置けたらだいぶ干せると思うんです」 そうですね、と本城が頷いた所で縁側から木田と数名の組員が出てきた。 「姐さん、何組買ってきましょうか?」 「今、本城さんと相談してたんですけど…出来ればあそこに二組置きたいんです。サイズどれくらいでしょうか?」 香乃が答えるとメジャーを持った組員達が一斉に歩いていく。 「姐さん、昼は何にしましょうかね」 「木田さん、メニューは数日分決めてらっしゃるって……」 いやぁ、と坊主頭を撫ぜて木田が苦笑した。 「今朝のおやっさんの味噌汁の食い方を見たら…香乃さんにご教授願いたいと思いましてねぇ」 木田は津城の父親といってもおかしくない年齢だ。 津城をおやっさんと呼ぶ違和感に苦笑して、香乃メニューを考える。 朝冷蔵庫の中は見た。 「えっと、今何人いらっしゃいますか?」 何人かは外の事務所に出勤している。 「ええと、アイツらと…今、坂口と平がシーツを洗いに出てるんで……香乃さんとおやっさんとで9人ですかね」 みんなの分と考えると、香乃はポンと手を叩いた。
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