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チーズケーキを手土産に訪れた陽菜に、いつものようにお茶を飲みがてら桑原のことを話すと、陽菜は露骨に不審げな顔をした。
「大丈夫なの、その男。なんかウラがありそうなんだけど」
他人を簡単に信じていると自分を蔑まれたことより、善意の桑原を貶す物言いのほうに葵はかっとなった。――自分が思うよりも、桑原の存在が大事になっているのだと、そのときになって気づいた。
「そんな言い方やめてくれるかな。彼、私のことすごく親身になって心配してくれてるの」
「は?私が心配してるのはどーでもいいって?――あー、はいはい、そうだよね。昔から、周りの男が放っておかないもんね。美人って得だよねぇ。仕事も沢山回ってきてさ」
「……そんな風に思ってたの、陽菜」
葵が押し殺した声で言うと、陽菜は一瞬言葉につまり、引きつった笑みを見せた。
「……あたしだけじゃない。周りの同級生もみーんなそう思ってたよ。だから、嫌がらせの文書にも『枕営業』とか書かれちゃうんじゃないの」
口を開けば泣きわめいてしまいそうで、葵は歯を食いしばってじっと庭を睨んだ。
陽菜は黙って自分のバッグを持つと、別れも言わずに葵の家を立ち去った。
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