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離しなさいよ、と毒づいてから陽菜は憎悪に顔を歪め、
「いいよね、つんとしてるだけで高嶺の花だなんだってちやほやされてさ。私と付き合った男はみんな葵に近づくために私と付き合っただけだった。仕事だってそうよ、教授にくる案件は全部あんたに回って、どんなに努力したってみんなあんたにさらわれる。それになによ、この家。古い古いって言うけど、家賃はゼロだし、空き地駐車場にして毎月お金は入るし、そりゃあ心豊かに絵も描けるでしょうよ。――だからちょっとでも悩めばいい、苦しめばいいって思ったのよ!」
これ以上聞きたくなくて、出て行って、二度と関わりたくないと叫ぼうとしたときだった。
陽菜の体が枕投げの枕のように、玄関脇の壁に叩きつけられた。
堅牢な石が貼り付けられた壁に陽菜の頭部がめり込み、怖気の走る音がした。そして、力を失った体は玄関に崩れ落ちた。
制止する間すらなかった。
葵は愕然として目の前に立ち尽くす桑原を見た。
桑原は道端の吐しゃ物でも見るかのように陽菜を見下ろし、
「こいつが葵さんを苦しめていたんだ。このくらいじゃ足りない」
苦しめた……確かにそれはそうだった。
だが、こんな目に合わなければならないほどの罪だろうか?
葵は廊下にへなへなと座り込んだ。
怪文書を入れ続けただけで、実害は……。
不意に、頭の中に不協和音が鳴った。
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