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「……待って。嫌がらせをしていたのが陽菜なら……私をつけていた男というのは……?」
「ごめんなさい。それ、嘘です」
あっけらかんと白状した桑原に、葵は呆然と顔を向ける。
無邪気な悪戯でも見つけられたような嬉しそうな顔で桑原は頭をかいた。
「俺、葵さんの告白が嬉しくて……でも、そこからどう応えたらいいのかわからなくなって。閃いたんだよ、ああすれば葵さんもきっと俺を頼りやすいって」
桑原の言葉に、混乱した思考が余計に絡まる。
桑原と、花を買う以外で話したのはあの夜が最初のはずだった。
「告白?――何のこと?」
「ほら、葵さんって、俺から花を買うとき……赤のチューリップとか、キキョウ、ナデシコ……そうそう、赤のアネモネとか。全部花言葉が一緒……愛してるってメッセージだったじゃない」
何を言っているのか理解できない。
桑原個人から買っていたつもりなどない、それに、花言葉なんて知らないしそもそも……意味を持つとしたら、贈る相手へだろう。
改めて目の前の男を見上げる。
この男の何を私は知っているのか。
名前、職場……それ以外は?
一昨年まで勤めていたという会社はなぜ辞めた?
「名前も葵って花だと知って、俺、感動したんだ。それだけじゃない、先祖が植えたマルベリー……日本語名、知ってた?びっくりだよね、桑の木なんだよ。……本当に運命的だと思ったんだ。俺の名前を暗示してたんだ。俺と、葵さんを結びつける約束の木……!」
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