マルベリーの木

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 ぞわぞわと、背筋が寒くなる。  たまたま先祖が植えた木に、運命を感じる?  全く、理解などできない。それを、夢見心地の顔で言い募る男の、眼鏡の奥の焦点の合わない目。  一体いつからこんな正気を失った目をしていた? 「桑はね、本当に特別な木で。実がなっているかどうかでメッセージが変わるんだ。しかも、実の熟し具合でも違っていて、実が熟す前は『知恵』なんだけど、熟したら『私はあなたを助けません』。――フフ、意味深だよね。それで、実がなる前は……」  桑原はそこで言葉を切った。  なんだと言うのか。  ただ、チャンスだと思った。 「運命の、その木の実がどうなっているか……確認しましょうよ」  声が震えていることを悟られないよう、必死に落ち着かせるように話しかける。――とにかく、外へ。逃げるチャンスが増えるはずだから。  葵の内心を知ってか知らずか、桑原は喉の奥で笑い声を出した。 「そうだね。運命のメッセージをね……」  粘つくような目線を葵に絡め、桑原は玄関の引き戸をゆっくり開いた。葵は身動きしない陽菜を横目でそっと見て、サンダルを履いた。
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