54人が本棚に入れています
本棚に追加
ぞわぞわと、背筋が寒くなる。
たまたま先祖が植えた木に、運命を感じる?
全く、理解などできない。それを、夢見心地の顔で言い募る男の、眼鏡の奥の焦点の合わない目。
一体いつからこんな正気を失った目をしていた?
「桑はね、本当に特別な木で。実がなっているかどうかでメッセージが変わるんだ。しかも、実の熟し具合でも違っていて、実が熟す前は『知恵』なんだけど、熟したら『私はあなたを助けません』。――フフ、意味深だよね。それで、実がなる前は……」
桑原はそこで言葉を切った。
なんだと言うのか。
ただ、チャンスだと思った。
「運命の、その木の実がどうなっているか……確認しましょうよ」
声が震えていることを悟られないよう、必死に落ち着かせるように話しかける。――とにかく、外へ。逃げるチャンスが増えるはずだから。
葵の内心を知ってか知らずか、桑原は喉の奥で笑い声を出した。
「そうだね。運命のメッセージをね……」
粘つくような目線を葵に絡め、桑原は玄関の引き戸をゆっくり開いた。葵は身動きしない陽菜を横目でそっと見て、サンダルを履いた。
最初のコメントを投稿しよう!