マルベリーの木

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 玄関を出る。『運命』の桑の木は、門柱近くだから暗闇に紛れている。 「見て、葵さん、美しい葉だよね……」  桑原の背中が見える。――突き飛ばして門から逃げるか、それとも裏に走って隣家に助けを求めるか――葵が逡巡したとき、門の向こうに人影が現れた。  ――制服を着た、警察官の二人組。 「――遅い時間に、何されてますか?」  葵はその僥倖に――いや、パトロールを増やすと言っていたではないか。ちゃんと対応してくれたのだ。  助けて、と叫ぼうとしたが出たのは掠れたため息のような音だけだった。それでも必死に警察官たちに目で訴える。  一人の警察官が葵を見て、一歩踏み出す。――それと同時に、桑原は弾かれたように走り出し、警察官の脇をすり抜けて葵の家を飛び出した。  警察官が制止を命令しながら後を追いかけ、もう一人の警察官は崩れ落ちるように座り込んだ葵に駆け寄った。  
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