マルベリーの木

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 結局、半年経っても桑原は捕まらなかった。  商店街の桑原生花店もシャッターを下ろした状態が続いている。  その後の警察官から聞いた話によれば、以前勤めていた会社も、同じ職場の女性に対するストーキングで解雇されていたらしい。  陽菜は重傷だったが一命を取り留めた。退院後、両親を伴って葵に謝罪に訪れたが、元の関係に戻ることはなさそうだった。  葵は、住んでいた家を手放した。  その資金で元の家から遠く離れた、こじんまりとした一人住まいのマンションを購入し、静かな生活を手に入れた。  あれから調べて知った――桑の花の花言葉は「ともに死のう」だったから。とても、住み続けることはできなかった。  あの木は切り倒されてもうどこにもないが、桑の花が咲く時期になると、言いようもない怯えに苛まれるのだった。 ―終―
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