マルベリーの木

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「まだ続いてるの?嫌がらせ」  シュークリームを手土産に、友人の陽菜(ひな)が尋ねてきていた。  彼女は学生時代からの付き合いで、同業者でもあった。  葵は美術を学び、現在はイラストレーターとして独立している。  まもなく三十路に突入する、二人は共に独身だった。 「うん……しばらくなかったんだけど。終わってなかったみたい」  マグカップの紅茶を啜る。  古い家だから、サザエさんの家のような縁側がある。  春の心地よい気候を味わうため、庭に面した大きい窓を開け放して陽菜と並んで腰かけていた。 「相変わらず、心当たりもなしか」 「ないよ。人違いなんじゃないかと思うくらいよ」  昼に近い、ぽかぽかと暖かい日差しを浴びているのに深々と重いため息が出てしまう。陽菜は眩しそうな目で庭を眺め、 「葵は昔からモテるからなぁ。自覚はなくても、勝手に片想いされて逆恨みなんてことも……」 「あっ、やっぱりこちらでしたか。すみません、お邪魔します」  はきはきとした声がして、庭に背の高い男性が姿を現した。葵と陽菜が驚いてそちらに顔を向ける。
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