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「あ、山本さん」
「チャイム鳴らしたんですけど、応答なくて。話し声がしたものですから」
濃い色のスーツに履きこまれた革靴、小ざっぱりとした髪の毛。
問いかけ顔の陽菜に、
「物件管理お願いしている会社の人なの」
「あー、そうなんだ」
祖父母から受け継いだこの古い家と、狭いが便利な場所にある土地の管理を依頼している。女の一人住まいということもあり、こうして時々営業のついでに困りごとがないか訪ねてくれている。
「特にお変わりないですか?――今年は蜂の巣、大丈夫そうです?」
「えぇ、多分。姿見ていないです」
去年は気づいたら軒下に蜂が巣作りをし始めてしまっていた。そのときも山本が害虫除去の業者の手配をし、事なきを得たのだった。
山本はちらりと陽菜を見て頭を下げると、
「それはよかったです。――御来客のようなので、今日はこれで……」
「すみません、ありがとうございました」
去っていく山本の大きな背中を見て、陽菜は肩を竦めると、
「あたし、お邪魔しちゃったかな?」
「そんなわけないじゃない、いつもこんな感じよ」
「そうなの?なかなかイケメンだったね――ま、紅茶もご馳走になったし、そろそろ帰るわ。あたしも締め切り近いんだぁ」
「お互い頑張ろうね。私も買い物あるから、途中まで見送るわ」
食器の片づけは後回しに、戸締りをすると葵は陽菜と家を出た。
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