マルベリーの木

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「あ……お花屋さん、の?」  長めの黒髪、黒ぶち眼鏡……エプロンの代わりに、黒のジャージ。葵の目の前で息を切らせているのは、花屋の男性だった。  男性はぎこちなく笑うと、思い出したように背後を振り返った。 「あの、後ろ……つけられてたみたいで、心配になって。急に声かけて、すみません……」  葵はぎくりとして男性のその後ろに目をやる。――誰もいない道路が続いているだけだった。  怪文書と、後をつける人間が太い糸で繋がっていく。 「ほ、本当ですか。姿、見たんですよね。どんな人でした?」  思わず男性の腕を掴んで、息急くように問いかけてしまう。男性は眼鏡の奥で瞬きし、 「後ろ姿しか見えなかったんですけど……背が高くて……えっと、大柄でした。明らかに、歩調を合わせる感じで、ちょっと知り合いには見えなかったので……あの、気になっちゃって」  背が高くて、大柄。  葵の頭の中の知人で、その条件に合致して、怪文書や尾行が物理的に可能なのは……3人。  大学時代の元彼、数年前の仕事のクライアント、そして……物件管理を依頼している山本。
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