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慌てて手を振る桑原の様子を見ていると、強張っていた気持ちが解れていくのを感じる。
女の独り暮らしであることや、嫌がらせの形で悪意を受けている間に、気を張って生きてきていたのだと気づかされる。
「あの……よければ、連絡先を交換……なんて、駄目ですかね……」
桑原のおずおずとした申し出に、ほんの少し戸惑いながらも、葵は頷いていた。
それから、葵と桑原の距離は少しずつ縮まった。
季節の花の話や庭木の手入れのことばかりでなく、しばらく前から怪文書を投げ込まれていること、後をつけていたのも同一人物かもしれないこと……そんな重苦しい話も、桑原に打ち明けることで気が楽になった。
怪文書については桑原も自分のことのように憤ってくれ、「俺がランニングのときに葵さんの家の前をパトロールしますよ!」と請け負ってくれた。
数か月経つ頃には、家に招いてお茶を飲むくらいの仲になっていた。
話すことと言えば花や庭木のことばかりだったが、何気ないおしゃべりは根を詰めがちな葵には、よい息抜きになっていた。
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