それはきっと愛の告白

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 羽が抜け落ち、天使でなくなった私が人間に紛れて暮らし始め、どのくらいが経っただろう。百年くらいだろうか。どうやら忘れっぽいのは封印の影響だけでなく性格の問題もあったらしい。全部神のせいにして悪かったなと今では少し思う。 「小松菜スムージー、マジ美味ですね」  家の近くにできたお店のスムージーをストローで吸い上げながら思わず言ってしまう。  甘味もあって飲みやすく、なおかつ小松菜ということでなんか健康に良さそうな気配すらある。最高の飲み物だ。  天使であったことの影響なのか人間のように生きるようになってからも長年常に健康で歳も取らなかったのだけど、最近少しずつ人間に近づいてきた。髪も伸びるしなんとなく歳を取っている気もする。だから一応健康にも気を遣っているというわけだ。でもきっと、私もいつか死ぬのだろう。  そうすればギャクに会えるのだろうか、と空を見上げた。あの日から何百回も何千回もギャクに会いたいと思って生きてきた。  ギャクはもう天使に生まれ変わったりしているのだろうか。そこには私はいないが、私のことも忘れているのかもしれない。それは寂しいな、と目を伏せたその時だった。 「天使様」  今となっては懐かしい、けれどずっと耳の奥に眠っていた声で呼ばれた。  振り返るとそこにはギャクがいた。悪魔の羽を持たない人間の姿だった。 「待たせてごめんね」  私はすぐには何も言えず、ただ駆け寄った。  手を伸ばして恐る恐る頬に触れる。もう焼けることはなく、ただギャクの体温を知る。 「おそいです」 「うん、ごめん。天使様のこと笑えなかったね」 「ゆるしません」  片手にスムージーを持ったまま、少し不恰好にギャクの体を抱きしめる。  ギャク、と名前を呼んだ。なあに、と返事をしてくれるのが嬉しい。百年余りの間何度呼んでもあなたは返事をしてくれなかったから。 「私に名前をつけてくれないと許しません」  ようやく同じになれた体を抱きしめながら言うと、ギャクは驚いたように私の耳元で言う。 「愛の告白みたい」  惚けたような声に私は笑ってしまった。それこそ遅すぎる。私がどれだけあなたに会いたいと思っていたことか。 「そうですよ。私、あなたのことが好きなんです。知らなかったんですか?」
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