夢現に咲く。

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「表現の規制を!性描写、暴力・殺人描写、その他すべての有害な描写を無くし、子供たちのためにも正しく美しい表現があふれる世界へ!」 塾の外で選挙カーが煩く喚いている。でも、まだこの『煩い』は良い。この政党の公約は国民が広く知るべき事だからだ。 我慢ならないのは… 「えー、困るんだけど。漫画がエロ規制されたらオレ超絶悲し~。」 馬鹿みたいな発言にゲラゲラと笑う塾生。 そう、我慢ならないのは塾に来ているにも関わらず、休憩時間に勉強とは関係ないことで盛り上がっている意識の低い連中の声だ。話の内容の程度の低さと言ったら吐き気がする。 あまりに煩く騒ぐから、僕は思い切り奴らを睨みつけた。 「サルどもが。不要な表現は排除していかないと、お前らみたいな馬鹿が漫画と現実の区別がつかなくて性犯罪とか起こすんだよ。だから規制は必要なんだ。分かったら静かにしてろ。」 漫画なんてくだらない。 百害あって一利なし。 漫画を読むと馬鹿になるって言うし。 僕の発言に馬鹿共がさらに騒ぎ始めた。 「うるせー、倫太朗ちゃんに話しかけてねーよ。」 「休憩時間に喋っちゃダメとか聞いてませんけど?」 僕のことを勝手に「倫太朗ちゃん」と呼ぶ馬鹿。 僕の名前は但馬(たじま) 倫太朗(りんたろう)だ。こんな奴らに気安く名前を呼ばれる覚えはない。僕が更に言い返そうとすると、馬鹿のうちの一人が僕の肩に腕を回してきた。 「倫太朗ちゃん、考えてみ?エロも暴力も規制されたら、漫画どうなんの?超つまんなくなるよ?あ、それとも倫太朗ちゃんは人魚姫とか絵本レベルでイロイロ満足できちゃう感じ?」 「イロイロってなんだよ、絵本がオカズってこと??やばくね?」 ……!! 突拍子も無い発言に硬直する僕の体。 それを見て『アイツ』が漸く口を開いた。 「誰も漫画の真似なんかしねーよ、リアルと漫画の区別くらいちゃんとついてるって。 だってほら、家にやたら服脱ぎたがる巨乳美少女が来るとかありえねーの分かってるし、だれも呪力も霊圧も持ってねーし、その時点でお察しじゃん?フィクションはフィクションで楽しんでますって。 倫太朗ちゃんもそんな堅苦しく考えなくていーじゃん。ただの娯楽なんだから。」 ヘラヘラと笑う男。こいつの名前は東藤(とうどう) (かい)。僕はこいつが大嫌いだ。馬鹿共とつるんで、女子にもちょっかいかけて、授業中も寝たりするくせに、塾内模試ではあっさり1番を取る。 こんなにも頑張ってる僕が、1番を取れないのに。漫画も読まずに、寝る間も惜しんで僕は勉強しているのに。女子とも、話せないのに。 ああ、憎い。 「ほら、授業始めるぞー。」 このタイミングで先生が部屋に入ってきた。 僕は馬鹿共を無視して参考書を広げる。席に戻ろうとした東藤は僕の隣を通り過ぎるとき、一瞬立ち止まった。 そして。 「おまえ、発芽するよ。」 これだけ言って、席の方へ行った。 発芽?意味が分からない。何言ってんだアイツ。
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