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「但馬君もちょっと言い過ぎだけど、でも東藤君たちももう少し静かにしてほしいな。
確かに休憩時間だけど、ほら周り見て。休憩時間でも勉強してる人いるよ。喋るなとは言わないけど、少し声のボリューム下げてくれると嬉しい。」
最後はニコッと笑った彼女。
名前は氷川 青葉。女子の中では塾内トップの成績で、しかも凄く可愛い。
色白で目がくりっとしてて、ポニーテールに束ねられた黒髪はツヤツヤサラサラだ。いつもセーラー服で塾に来ていて、それがとても彼女には似合っていた。
馬鹿な男ほど可愛い女に弱いから、これだけで奴らはすぐに黙る。さっきまで大声でいきってたくせにダサ。僕が氷川さんに会釈すると、氷川さんはクスッと小さく笑い返してくれた。
なんか、気のせいかな、
僕たち今、同志って感じがした?
二人とも休憩時間に騒ぐ馬鹿に困ってて、初めて協力して二人で馬鹿共を注意して、なんていうか、今の流れで氷川さんと距離がぐっと近くなったような…
今の内緒のアイコンタクトが、僕の胸をぎゅっと掴んだ。
「あ、芽が出ちゃったね。」
東藤が僕の傍を通り過ぎるとき、ボソッと囁いてきた。
は?
意味不明なこと言うな。
****
その夜、またひっそりと人魚姫の絵本を開いた。
…あれ。
おかしいな、なんでだろう。
今日は人魚の顔が氷川さんだ。
いやいや、何考えてるんだ僕。氷川さんが人魚って、そんなこと考えたら氷川さんのお…、おっぱいとかも考えることに…
心臓が、異常にバクバクする。
いけないことだ、こんなことを考えるなんて。
いけないことなのに、すごく、そそられる。
学校はつまらない。
友達もほぼいない。女子とも当然関わりがない。同性も異性もどうやって話したらいいかわからない。共通の話題がない。クラスメイトが盛り上がっている話の内容についていけない。
テレビ?そんなの見てる時間あるなら勉強する。
漫画?読んだらママに叱られる。
ゲーム?そんなものは家にない。
「あいつ全然面白くない。」
「あいつキモイ。」
誰かに言われた。
煩い、馬鹿のくせに。
僕はお前らより偉いんだよ、
賢いんだよ、
将来絶対僕の方が成功するんだよ、
難関大学に入って、
超一流企業に勤めて、
エリートになるんだよ、
遊び惚けてる馬鹿とは違うんだ。
最後に笑うのは僕だ。
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