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51 迅速かつ丁寧に
セイブル伯爵邸にカルザス家の馬車が到着した。
2人の淑女が馬車から降りるために、セイブル伯爵家の侍従達がドアを開ける。
「此方にどうぞ」
侍従の1人がパーティー会場の大広間のすぐ横の応接室へと案内すると、そこで待っていたのはセイブル伯爵夫妻であった。
「陛下の仰るとおり息子の誕生パーティーは開催しますが・・・ 本当に良いのでしょうか?」
白髪が最近やたらと増えたと言う伯爵は始終恐縮しっぱなしである。
婦人も頷きながら伯爵と同意であることを示したが、顔色はあまり良いとは言い難い。
「まさかトーマスが・・・」
はぁ、と溜息をつく伯爵。
「陛下にありのままを伝える心の準備は整ったか?」
見た目だけ淑女のジュリアンが、伯爵に向かってそう言った。
「最後まで息子を信じたいと思いますが・・・」
伯爵が神妙な顔でそう呟く。
「伯爵家を自分の代で潰す訳にも・・・って所かな?」
「はい」
そのやり取りを広げた扇の向こうで見つめるイリーナ。
「セイブル伯爵様、宜しいでしょうか?」
「イリーナ嬢?」
「何故、彼は私を呼んだのでしょうか?」
「わかりません。カイザル伯爵令嬢との婚約は白紙撤回されたことは書簡で知らせました。その後本人に再確認は出来ておりませんが」
「そうなんですね」
「兵役から帰ってから自邸に殆ど居着きませんでしたから」
申し訳無さそうに眉を下げる伯爵夫妻。
「ああ、そりゃ王都中の恋人に毎日会いに行ってたからだ。こちらで確認済みだ」
ジュリアンの突然の言葉に伯爵夫妻とイリーナの3人が驚いた顔をする。
「まあ、30人居るから1ヶ月かかるだろ? 義務兵役から帰ってきてから丁度今日で31日目だから、自邸で誕生パーティーに間に合って良かったってとこじゃないかな?」
彼が何かを数えるように指を折りながらそう告げると、ええええ~~、という顔になるジュリアンを除く3人。
「ホントにマメな坊っちゃんだな。そのマメさを本来は違う方向に使えば優秀だったかも知れないがね」
美女に見える暗部の統括ジュリアンは、肩を竦めた。
「伯爵、報告は迅速かつ丁寧に頼む。陛下も其れを望んでるからな」
伯爵は頷くと
「お世話になります」
力なくそう言った。
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