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53 ステューシー邸
細身に見えてもやはりジュリアンは騎士だ。見た目以上に筋肉質な彼の身体に目を見開くイリーナ。
「そのコルセット、よっぽど身体が丈夫じゃないと使えないのね・・・」
「こんなの締めたらイリーナだとアザになるな。体幹に筋肉が無いと、締め上げた時に押しつぶされる様なシロモンだ」
そう言って笑うジュリアンは胸のパットとビスチェを忌々しそうに脱ぎ、ほぼ胸が丸見えになるくらい開けていたシャツのボタンをキチンと止めた。
彼の肌が目に入り、顔が思わず赤くなるイリーナ。
「これでやっとこの件についてはお役御免だ」
そう言いながら、脱いだドレスもコルセットもビスチェもその長い足でかき集めながら、両手は髪の毛を頭頂部で一纏めにして青い髪紐で縛るといつものポニーテールだ。
備え付けのタオルを水に浸して顔を拭うと引いていた紅も白粉も無くなり、あっという間に女性っぽさが消えてしまった。
「あ~あ。イリーナの婚約者は俺だ! ってあの場で叫びたいのを我慢するのが大変だったよ」
そう言いながら、赤面するイリーナの頬にキスをするジュリアン。
そう。
今は彼がイリーナの正式な婚約者なのだ。
××××××××××
「イリーナ、疲れたろ?」
「少しだけ」
セイブル伯爵邸から、馬車で王都の外れにある洒落たお屋敷に帰ってきた2人は、いつものイリーナ付きのメイドに笑顔で出迎えられた。
此処はジュリアンの諜報活動の拠点の1つとして使う予定だった場所で、例の玉璽騒ぎで爵位を剥奪された貴族家の別荘だったのだが、急遽今回の褒美として彼の住居として使うようにと国王陛下から賜った屋敷である。
イリーナは婚約者として既にここに滞在しており、あと1ヶ月後に迫った婚姻式後もそのまま住むことが決まっている。
婚姻後の新居の準備の為に古参の執事やメイド達も既にやって来ており、実は引越作業の真っ最中で今は夜なので静かだが、昼間は結構騒がしい。
元々ジュリアンも、カイザル将軍と一緒で爵位はあれども平民だった。
その為召使いなど一生雇う気はなかったが、カイザル家の召使い達の朗らかでざっくばらんな態度は気に入っており、結婚後のイリーナの為にもそのまま彼らをステューシー邸で雇う事が決まっているのだ。
ジュリアン自身、この一件で人生そのものが全く違うものになったと言っても過言では無い。
しかし彼に後悔は全く無く、幸せそうなので何よりである・・・
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