73人が本棚に入れています
本棚に追加
1. 衆人環視の中で言い渡される婚約破棄?
「イリーナ・カルザス! 残念だが君との婚約は破棄させて貰う!」
ひときわ高くなったステージ上からそう叫びながら、セリーナを指差すのは、トーマス・セイブル伯爵令息。
セイブル伯爵家の嫡男で本来なら、後1月ほどで彼女が婚姻を結ぶ予定の男性だ。
緩くウェーブした美しい金の髪を纏めて背中に流し、前髪を一筋だけ垂らした秀麗な姿は、それこそパーティー会場のそこら辺にいる貴族のご令嬢に無駄に人気がある。
こちらに向ける青い瞳は深い海のようで、ハッとするような美しさだ。
まぁもっとも今は何だかイヤらしく弓形になり、薄く形のいい口元は意地悪そうに歪み、とてもではないがコイツと永遠の愛なんぞ間違っても誓いたくはないなと遠い目をするイリーナ嬢。
――そんな事したら神への冒涜になりかねませんよね? だって嘘はいけません。
「私はこの場で宣言する。真実の愛を見つけたのだ」
そう言いながらトーマスは、彼の後ろに隠れるように佇む自分とあまり変わらない位の背の高い女性の腕を掴むと引っ張るように自分の前に立たせたのだ。
「紹介しよう。私の愛する人、新たな婚約者であるジュリー・カルザス女伯爵だ」
会場内の招待客がザワザワとし始め、若い女性達が小さく悲鳴を上げる。
そんな中、艷やかなミルクティーブロンドと深い森のような瞳をした美貌の女性、ジュリーがにっこりと妖艶に微笑み会場に向かい美しいカーテシーを披露する。
あまりの美しさにざわついていた会場内が一瞬押し黙った。
その刹那
「フザケンなこのひよっ子が。舐めた口ききやがって・・・・」
――ドスの効いた低い声が響き渡り、今夜の主役であるトーマスが綺麗な放物線を描いてステージ上から吹き飛んで行った・・・・
最初のコメントを投稿しよう!