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春の兆しが見え始めた頃、校内で、猫の死骸が見つかった。人づてに聞いただけで、実物を見てはいないのだけど、きっとあの野良猫だろうなと僕は思った。誰かが石を投げたとか、そんなような噂も流れていたけど、その真偽は僕にはどうでもよくて、悲しい思いをしていなかったらいいなと、ただそう思った。彼女は外を見ていた。
その日の部活で、先輩の一人が、猫を殺したのは自分だと自慢していた。大方の人間はかなり引いていて、ごく周辺の仲良したちは笑っていた。僕はそれが本当だとは思わなかったけど、あの猫とは目を見合わせた間柄だし、やっぱりその死を冗談にされるのは気分が悪かった。僕は何も言わずに荷物を持って、体育館を出た。僕の仲間はぽかんと見ていたが、止める人間はいなかった。帰り際、僕は先輩の靴を掴み、その辺に放り投げた。もちろん、誰も見ていないようなところで。
渡り廊下を横切って、西館の裏側に歩いて出て行くと、彼女がいた。何もないところで、地べたに座っていた。僕は近づいた。彼女は僕の方を見ずに話し始めた。
「野良猫のようになりたい。そう思うことがある。飼い猫よりも孤独で、野良犬よりも無害だから。自由の印象は副産物に過ぎなくて、彼らは目的が宙に浮き、その場をぐるぐると足踏みで回っている。たぶん私が思っているよりも近い未来で、彼らは滅んでいる。野良犬よりは後だけど、飼い猫よりはずっと早い。ただ生きることは目的に不十分で、それだけでは繁栄できないのだけど、意味もなく塀を超え、道を横切って鳥を食うという生き方に、ふと、ああ、いいなと思う。」
立っている僕の位置からは、彼女の顔が髪で隠れて見えなかったが、きっと悲しい表情なのだろうと思った。そんな口調だった。泣いていないかと心配になったくらい。けれど、正直、僕の方が泣きそうだった。なぜなら、彼女が言っていることが、僕にはまっっったくわからなかったから。悔しいのか、悲しいのか、全然、言葉では説明できないけど、とにかく泣き出したい気持ちだった。
呆然として立つ僕の手を、彼女がそっと握って言った。
「別に、言ってもいいから言うんだけど、わたしは近い将来、タイムマシンを考え付くらしい。タイムマシンを実現させる、核となる理論を。未来のわたしが来て言ったから、事実。未来のわたしが言うには、よく覚えてないけど、この時代のわたしが何かでふと笑ったときに、ぱっとそれを思いついたんだって。過去の自分に直接干渉してくるくらい、手段を選ばない事態だってことは伝えられた。未来のわたしは、それをなかったことにしたいらしい。その瞬間を通り過ぎれば、ひとまず平穏で安全な暮らしが続くだろうって。あのとき聞いておけばよかったな、未来に野良猫はいるのかって。」
小さくて柔らかいその手の感触は、本当にそこにあるのかわからないくらいの弱々しさで、今にも離れて行ってしまいそうなので、僕は力強く握った。彼女がこちらを向いた。無防備な表情で、そんなにしっかりと顔を合わせたのは初めてだった気がする。だから僕は思い切って、
「にゃ~~~~~~あにゃむ!」
と叫んでみた。説明不可、その場限りの、本当の一発ギャグである。
その瞬間、彼女の背後の、何もなかった空間から、ピチピチの未来的デザインのスーツを着た男と、同じ格好の女の人が音もなく現れて、よく見えなかったがおそらく何かの武器を向けてきた。同時に、最後に見えた光景は、彼女がふふっと漏らした可愛い笑顔だった。
そのときの気持ちと言ったら、本当、何て言ったらいいかなぁ!もう!
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