序章 どこかで見た光景

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序章 どこかで見た光景

 カチコチカチコチ…… 真夜中2時――。 静かな部屋に時計の音が響いている。私は今、仕事に追われている真っ最中だった。 「早く……早く書きあげなくちゃ……締め切りが……‼何としてもこの仕事、絶対に落とすわけにはいかないんだから……!」 現在25歳の私は乙女ゲームのフリーランスのシナリオライターとして、何とかようやく食べていけるようになっていた。 それは第1弾の乙女ゲームが予想外にヒットし、名前が売れた為である。今は続編のゲームシナリオを書いている真っ最中だった。  ようやく書きあげたシナリオも、制作会社からのダメ出しで何度も何度も修正依頼が入ってきた。締め切りも近いのに改稿作業に追われていたここ最近の私の平均睡眠時間は3時間程度。 オーバーワーク気味だった。  けれど、ようやく改稿作業も終わりを見せて来た。 「フフフ……何とか締め切りには間に合いそうね。これが終わったら死ぬほど寝てやるんだから……出来たわっ!」 バシバシとキーボードを叩き終え、修正が終わったシナリオを見直した。 「……よし、オッケーね!」 早速ファイルを添付して、ゲーム制作会社にシナリオを送った。 「良かった……やっとこれで眠れるわ……」 PCの電源を落とし、部屋の電気を消してベッドに潜り込んですぐに激しい胸の痛みに襲われた。 「う……い、いたたた……く、苦しい……」 そのまま胸の痛みに耐え続け……私は完全に意識を無くした――。 ****  ザワザワと人の騒ぎ声で私は目を開けた。 「え……?な、何ここは……?」 目の前にはどこかで見たことがある真っ白なお揃いの制服を着た学生たちが広い会場に集まっている。 女子学生は襟元に大きな黒のリボンに足首まで届くロングスカート。男子学生は黒いネクタイに上下とも真っ白なスーツ姿だった。 そして何故か全員が私の方を凝視しているように見える。 「あれ……?あの制服何処かで見たことが……ええっ⁈」 何と驚いたことに私まで同じ制服を着用し、右手に赤いワインが注がれたグラスを手にしていた。 「な、な、何で……こんな場所に……こんな格好で……?」 誰かに事情を聞きたくて、周囲を見渡すと何故か全員が視線をそらす。 そのくせ背後からは痛い視線を感じる。 「おかしい……。絶対にこれは夢に違いないわ」 なのに何故かこの光景には見覚えがある。とりあえず落ち着く為に何か飲み物でも飲んでみよう。 幸い私の右手には何故かワインが注がれたグラスを手にしている。 グイッ! 早速グラスの中のワインを飲み干す。 「うん、普通に美味しいわね……え?美味しいっ⁈」 そんな馬鹿な。 夢の世界で味が分かるなんて、あり得ない。ひょっとしてこれは夢では無いのだろうか? おまけにこの見覚えのある制服に、この光景。 一体どこで……見たんだっけ……? その時、ひそひそと私の方を向きながら囁く声学生たちの声が聞こえて来た—―。
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