第2話 自分の正体判明

1/1
108人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

第2話 自分の正体判明

 私の叫びに、その場にいた全員が驚いたのは言うまでもない。最も一番驚いているのは他ならぬこの私だ。何しろ鏡の中に映っているのは悪役令嬢アンジェリカなのだから。  金色の長い髪に、特徴的な琥珀色の瞳……。美人ではあるが釣目で、目の下にある泣きぼくろが妙に色気を出している。 「そんな……嘘よね?お願い、嘘だと言って……」  けれど無情にも鏡の中のアンジェリカは私と同じ口の動きをする。鏡を覗き込み、ブツブツと呟く私を周囲の学生たちが気味悪がっている。 「な、何だ?ついに頭がおかしくなったのか?」 「嫉妬で狂ってしまったのかしら?」 「もっと離れた方がいいぞ」  すると、私の様子を見かねたのか何者かが声を掛けて来た。 「お、おい……アンジェリカ。一体どうした?」  顔を上げて声を掛けた人物を見て、私は再び叫んでしまった。 「キャアアアア‼バ、バート・キャンベル‼」  赤い髪に黒い瞳の彼はやはりこのゲームの攻略対象でアイザックの最側近だ。彼もやはりソード・マスターの称号を持っている。 「大丈夫か?落ち着けって!」  私に声を掛けるバート。そうだった、彼は心優しい青年で、悪役令嬢として嫌われているアンジェリカにすら親切にしてくれていた。 「バート様、アンジェリカ様は混乱しているようです。何をするか分かりませんので少しお傍から離れた方が良いですわ。どうぞこちらへいらして下さい」 「ああ、そうだ。その女は罪人だ。バート、気がふれたふりをして罪を軽くしようとしているかもしれない。セリーヌの言う通りにこちらへ来い」  え?アイザックはともかく、今のセリーヌの態度に一瞬違和感を感じる。セリーヌってあんな性格だっただろうか? 「しかし、王子……」  バートは親切だ。まだ私を気に掛けてくれている。 「バート!王子の言う通りにこちらへ来い!」  再び別の声が聞こえて来たので振り向くと、いつの間にかセリーヌの背後には別の青年が立っていた。青い髪を肩まで伸ばした彼の名は……。 「アハハハハ……。クレイブ・アスラン……やっぱりいたんだ……」  もうここまで来たら開き直るしかない。何故なら彼だって、当然このゲームの攻略対象の一人なのだから。 「アンジェリカ、いくら気のふれたフリをしたって無駄だぞ?きょう、この場はお前の罪を全て公にする為に特別に設けた場なのだからな」  アイザックは妙に芝居がかった言い方で私を睨みつけて来た。    そう、この場面……ゲームのクライマックスの見せ場でもある、『断罪』のシーンなのだ。  メイン・ヒーローであるアイザックとヒロインが見事恋を成就させた場合のみに発生するアンジェリカの為だけの?イベントだ。  彼の婚約者であるアンジェリカが全校生徒の前で聖女のセリーヌに対する数々の嫌がらせを読み上げられ……侯爵令嬢だったアンジェリカは罰を受けることになる。  それが今リアルタイムで実行されようとしているのだ。アンジェリカは爵位を取り上げられ、家族と縁を切らされる。    挙句の果てに、何もかも失ったアンジェリカは最後にここからずっと離れたへき地に追放されるという悲惨な末路が待っているのだから――。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!