第3話 断罪劇の開幕

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第3話 断罪劇の開幕

「王子、ですがどうみても今のアンジェリカの様子はおかしいです。いつもと違って高飛車な態度では無いですし、何よりパニックを起こしているではありませんか。そんなに責め立ててばかりいないで、少しは彼女の話を聞いてあげてもいいのではありませんか?」  バートはまるでアイザック達から私を隠すかのように前に立ち、訴えている。  おお!流石は私の中でメイン・ヒーローのアイザックよりも一押しのキャラ、バート・キャンベルだ。  自分でシナリオを書いておいて何だが、正直に言うと私はアイザックのキャラが好きでは無かった。何故なら彼は婚約者のアンジェリカを顧みることが一度も無かったからだ。  私は当初、彼を心優しいヒーローとして描くつもりだった。ところがゲーム制作会社からアイザックのキャラについて。注文が入ったのだ。  出来るだけ、悪役令嬢のアンジェリカを蔑ろにする役に作り替えるようにと。そこでやむを得ず、アイザックの性格を思い切り改変せざるを得なかった。その代わり、バート・キャンベルと言う愛すべきキャラを作り上げたのだが……。 「いい加減にしろ!バート!お前は一体私の何だ?」  アイザックは厳しい口調でバートを睨みつける。 「はい。アイザック様に忠誠を誓う……家臣です」 「だったら、早くお前もこちらへ来い。今からアンジェリカの罪状を読み上げるのだから」 「は、はい……」  バートは言葉を嚙みしめるように返事をしてアイザックの側へ行くとこちらを向いた。彼が私を見る目には同情が浮かんでいる。  そう、バートはどんなに正義感が強くても、結局権力には敵わないのだ。  ゲームの中でもバートの力ではアンジェリカを守り切れず、周囲の者達から見捨てられた哀れなアンジェリカは僻地へと追放されてしまうのだ。 「さぁ、アンジェリカ。お前の味方をする者は誰もいない。何しろ、お前はセリーヌに数知れぬ嫌がらせをしてきたからな?」  アイザックは勝ち誇ったような言い方をする。 「……」  もはや、私は自分の運命を呪うしか無かった。恐らく、本物の私は布団の中で心筋梗塞か何かで死んでしまったのだろう。  そして何の因果か知らないけれども、自分が書きあげたゲームの世界に転生してしまったのだ。  しかも断罪される真っただ中で。    もっと早くに……出来ればヒロインが現れる直前にでも転生していれば、まだ自分の運命を変えることも出来ただろう。けれど、いくら作者の私でも今の現状を覆すことなんて、不可能だ。  「では、アンジェリカ・デーゼナー。今からお前がセリーヌにしでかした罪を読み上げるぞ?」  アイザックはニヤリと笑い、懐から手紙を取り出した。  その時、私は見た。  セリーヌが勝ち誇ったかのような笑みを私に向ける瞬間を。  まさか、セリーヌは……?  ひょっとすると……私の勘が当たっていれば、今の状況を覆すことが出来るかもしれない。  私はその時が来るのをじっと、待つことにした。 「では、一つ目の罪状を読み上げる!」 アイザックの得意げな声が、この日の為に用意された特設会場に響き渡る。 ついに、このゲーム世界の山場である断罪劇が始まった――。
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