サード・インパクト 聖書研究、そして大会へ……

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「あのー? よろしいでしょうか?」 「なぁに?」 「この宗教団体におけるクリスチャンのみが生き残るのは分かりました。アダムとエヴァがいたとされる楽園(パラダイス)で暮らせるってことで良いんですよね」 「そうよ」 「楽園で、この宗教団体におけるクリスチャンは何をするんですか? アダムとエヴァが蛇に唆される前みたいに果物食べて動物と遊ぶだけの暮らしに戻るのでしょうか?」  すると、深田の母はうーんと唸った。そして、おもむろに口を開いた。 「聖書研究と伝導奉仕(布教)よ。今、岩佐くんが言ったアダムとエヴァみたいに暮らせるようになるには、もうちょっとだけかかるかな?」  あれ? 生き残るのはこの宗教におけるクリスチャンだけではないだろうか? 全員クリスチャンであれば、もう不信心者は全員亡くなっていて、布教はもう必要ないのではないだろうか。  私の顔に「あれ?」とでも書いてあったのか、その答えを深田の母は述べた。 「いい? 私達の伝導奉仕を受けたことが無い人が復活するの。生前に拒否した人はもう生き返ることが出来ないの。悲しいわねぇ」 「はぁ……」 「それで、生き返った人に私達が再び伝導奉仕をするのよ。受け入れれば私達と一緒のクリスチャンになれるのよ。拒否をすれば神によって地獄の火の中に投げ出されて終わりよ。私達だって悪いことをすれば地獄の火の中に投げ出されるわ。ハルマゲドンが起こってから神様は1000年の間に『生き残るべき人』の再選別を行うから清く正しく生きなきゃいけないのよ」  いきなり神が怖くなったぞ。自分の意に沿わないものを排除する独裁者にしか思えないのは気のせいだろうか。楽園に行った後は神が生殺与奪の権利を握りながらの再選別を行うようだ。それに「楽園」なのに何故に地獄があるのだろうか……   それと、生き残った後の1000年を「もうちょっとだけかかる」とは言ったが…… 随分と長いものである。私は簡単にではあるが総括を行ってみた。 「えっと、ハルマゲドンが起こって…… 楽園に居を移しても、1000年は清く正しく生きないと駄目ってことですね」 神にビクビクと怯えながら清く正しく生きられる素敵な場所を楽園(パラダイス)と言うらしい。これをディストピアと言わず何と言おうか。  後の話になるが、この宗教団体の信者数十人と「楽園」の話をしたことがあるのだが…… その殆どが「ハルマゲドンが起こった後は私達だけは楽園に行くことが出来る」で話が止まっていた、楽園で過ごす1000年間の間に再選別が行われることを知っている者は殆どいなかった。深田本人も「楽園に行ったら寿命がストップして幸せになって終わると思っていた」と言っていたぐらいだ。 おそらくは、よく勉強している古参のベテラン信者や、集会で話すために知識が必要な長老や司会を任される兄弟ぐらいしか知らないであろう。
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