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「すまね、トイレ」
私は一旦離席し、トイレへと向かった。ここのトイレは男女共用。両壁際を挟んで個室トイレと、小便器が設置される形となっている。小便器で用を足していると、ビシッ! と言う何かを叩く音と共に「ぎゃあああーっ!」と言う子供の悲鳴が聞こえてきた。
そして、母親らしき女性の「泣いちゃ駄目!」の怒号が続く。
まだトイレトレーニングが必要な子供でも入っているのだろうか。大方、しーしーを失敗して便器の横にはみ出たか何かで怒られているのだろう。私はそんなことを思っていた。
しかし、それは甘い想像だった。
「○○ちゃん? ありがとうございましたは?」
「えぐっ…… えぐっ…… ありがとうございました……」
「ママだって、やりたくないんだからね? ○○ちゃんの中にいるサタンを追い出すためにやってるんだからね? それはわかって?」
私が用を足し終え、洗面所で手を洗っていると、個室トイレの中から母子の親子が姿を現した。母親の方は私の姿を見た瞬間に「ハッ」と驚いたような顔をし、気まずそうに息子の顔をじっと見つめていた。息子の方は目を泣き腫らして顔をクシャクシャにしながらも私の顔をじっと見つめていた…… 私は、その目が「助けて欲しい」と訴えかけるものであることに気がつけなかったことを未だに後悔している。
目の前で子供が泣いていれば気にはなるもの。私は母親に問いかけた。
「あの、息子さんどうかなさいましたか?」
母親の目は泳いでいた。そして、手も洗わずに息子の手を引いて集会場へと戻って行った。
その日の集会のテーマであるが…… 他宗教の児童虐待を糾弾し、我々は決してそんなことはしないと健全さを訴えかけるものであった。
自分はそんなことはしない。と、言ってる奴は実際にはやっているもので、他者を糾弾することで隠れ蓑にしているんじゃないの? と、失礼ながらに思ってしまった。
実際にそうだったことに気がつくのは、もう少し先の話になる……
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