寝顔

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 あまりにもあっけない終わりに、絢斗は玄関を見つめ呆然と立ち尽くした。  博美と過ごした時間はいつも騒がしくて……  けれどそこには愛が溢れていた。  賑やかな博美も、さすがに寝ている時は静かで……  気の強い女が、こんなにも無防備な姿を自分にだけさらけ出していると思うと、愛おしくて仕方がなかった。  次の瞬間にはスマホを握りしめ、博美に電話をかけていた。  呼び出し音が耳に響く。一回、二回……  着信音が耳に届く。  ――え?  絢斗は確かめるようにゆっくりと玄関に近付いて、そっとドアを開けた。  ――博美……  ドアのすぐ横で、博美が膝を抱えて小さくなっていた。 「博美……」  呼び掛けたが、博美は返事をせず膝に顔をうずめて肩を震わせている。  こういう時は……  絢斗は覆い被さるように、うずくまる博美を腕の中に入れた。 「博美……俺は別れたくない」  そう言ってから、絢斗は違和感を覚えた。  数秒後、それが何かに気付いた絢斗は、はっと息を呑んだ。  今まで一度も、博美に自分の思いを伝えたことがなかったのだ。 「絢斗君の気持ちがわからなくて、ずっと不安だった」  潤んだ瞳で声を震わせながらそう言った博美を見つめていた絢斗は、やっぱりそうか、と眉をひそめた。  絢斗の思い上がった態度が、博美を不安に陥れていたのだ。 「いつか博美、言ってただろ? 全てを受け止めてくれる俺が好きだって」  博美が小さく頷く。 「当たり前過ぎて、その時はあんまりピンとこなかったんだけど、結局は俺もそういうことだと思ったんだ。博美は、ありのままのこんな俺を受け入れてくれたってことだろ?」 「それは順番が逆だよ。付き合おうよって言ったのは私だよ? 絢斗君はさぁ、出会った時からどんな私でも『それが博美だから』って受け止めてくれたでしょ?」  「そりゃあそうだろ」 「勿論そんな絢斗君が大好きなんだけど……でも、そんな絢斗君だから余計に不安になるの。きっと誰にでもそうなんだと思うし、別れた彼女のことでさえも悪く言ったりしないし……」  いつものことだが、いつものように、そんなことを心配する必要など全くないのに、と絢斗は思う。  博美は出会った時から、自分の気持ちをストレートにぶつけてきた。付き合う前も、付き合ってからも、駆け引きや匂わせなど皆無だ。  絢斗のように、相手の気持ちを確かめるために嫉妬心を煽ったりなどはしない。    だが、博美は気付いていないようだ。  絢斗の思いがどれだけのものか……
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