第三章

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第三章

俺たちオペレーターは、商品を売るために、その保険のセールストークを徹底的に叩き込まれる。相手が何を言っても、それを押し返して「だから必要なんですよ、入りましょうよ」へもっていくのだ。 お客は、いらないからと反論をすればするほど、どんどんオペレーターにしゃべらせることになってしまい、それはまるで蜘蛛の糸に蝶がからめとられていくように追い詰められていくのだ。 とはいえ、それはうまくいけばの話で、結局人は感情によって動かされる。 どんな慣れているオペレーターでもお客さんが「いらない」と一言いえば それ以上どうすることもできないのだ。 対面だったら土下座なり居座るなりして(それも違法なのだけど)泣き落としができるかもしれないけど電話だとそれがなかなかできない。 と思いきや、やはり結局は人間対人間。 理詰めで「これはあなたにとって必要なので買いましょう」「うん、買うよ」という流れよりも「お願いします!お願いします!」と電話越しに懇願し「しょうがないなぁ、じゃぁ一番安いプランだったら入るよ」みたいな、情に訴えやすい人を見つけて、そこにつけこむのが主なやり口だった。  自分でも酷いなと思ったのだけど、結局それで加入してくれたとしても、そのお客さんに感謝するのは一時だけだ。 今日は契約できたけど、明日はまた別な人を契約させなくてはいけないし 来月にもなれば、営業成績はまたリセットされて0から積み上げなくてはいけない。 それに自分らはあくまで「保険代理店」であり、実際にお客さんが保険に加入して何か質問とか困ったことがあったらあとは保険会社へ連絡しないと対応できない。 もちろん保険商品というのは、合法的なものではあるし、金額に見合った価値を提供している商品という事は間違いないのだけど、泣き落としで本来さほど必要のない人に購入させるというのは、本当の意味でその人の役には立っていないという事になるのだ。 我ながら阿漕な商売だと思うのだけど、我々も好きでしているわけではない。 結局お客さんを一人でも契約させないと上司から「詰め」られるのだ。
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