第四章

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第四章

繰り返すが2週間に一度のペースで大量に人が入ってきて、大量にやめていく。 一度はうちの会社に入った人は何千人にもなるがその中で「こいつは天才だ」という人間に何人かいた。 繰り返す。これ、実話である。 まず一人。 H君という。 この人は、催眠術を使える。 よくテレビとかで「はい、あなたは目が覚めると~~になってます」とかいう、あれだ。 それを電話越しに、声だけで行う。 電話越しにお客さんを催眠状態に陥らせる。 そうすると後はもうH君の言うとおりにお客さんはパンフレットから申し込み用紙を取り出し、所定の欄に、H君に言われた通りのことを書いていく。 そうして申込用紙を封筒に入れて投函してもらうのだ。 俺たちが話していた内容というのはすべて録音される。 ブラック会社であるが、俺たちをこき使うための設備にはお金を惜しまない。 一人だけ妙に成績が良い人がいて、それがH君で、どういう秘密があるのかと彼の音声データを聴いてみるのだけどはたから聴くとおかしなところはない。 普通にお客さんと話をして説得しているのだ。 何か相手だけに聞こえる超音波?みたいなのを発しているとしか思えないのだ。 それだけだったら「彼はなんか妙にトークが上手い」だけで済ませられていたのだが H君は超能力を使える、それは催眠術だ、というのが広まったのは理由があって。  お客さんが申し込みをした後には、保険会社からお客さん宅へ保険証券が届く。 それを見て「やっぱり解約したい」という申し出が多かったのだ。  お客さんは保険会社の人へ「いやぁ、なんか勧められていた時は、確かに自分の意識はあったんだけど、気づいたらもう言われるままに申し込み用紙をかいていたんだよね。あれは自分だけど自分でないような、不思議な体験だった」と、異口同音に言っていたという。 なので保険会社から「H君はどういう営業スタイルをしているのだ」と追及があった時に 音声テープを聞いたら…しかし不審な点は全くないという事だったのだ。  ちなみにH君は、催眠術が使えるという事以外は、いたって普通の人だった。 営業成績が抜群に良いからと言ってそれを鼻にかけることもなかったし周りの同僚とも不通に「友達」として接していた。 営業成績の多寡がそのまま会社内での人権の多寡になるような環境で それはそれで珍しい人だった。  のちに会社はつぶれてしまい、それから疎遠になってしまったのだが 彼は今何をしているのだろうか?
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